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四国遍路日記 第1期 6日目 2001年10月13日(土)


 朝食も美味しかった。メニューはだいたいどこも同じではあったが、漬物、梅干し、海苔、竹輪、味噌汁に生卵でご飯を3杯も食べてしまった。

 僕のこの旅での朝は、うまく準備ができないことが多かった。食事は他の人と一緒に取ることはできても、なんだかんだと準備で時間がかかり、他の人よりも出かけるのが遅くなっていた。

 しかし、この日はTさんとRさんと僕の3人一緒に7時過ぎに宿を出る。Rさんは、荷物を家の方に送っていた。少し身軽になった様子。彼はいつもマラソンをしているのだという。この旅が終わってからホノルルマラソンに出るのだと言っていた。50歳を過ぎ、大きな子供もいるのだけど、見た目も気持ちもかなり若い人だった。

 一緒に歩き出すが、別に一緒に歩くわけではない。その人その人のペースで、少しずつ離れていく。それなりに離れたこともあったのだけど、ほぼ同じ時間に第19番の立江寺へ到着。ひっそりとした小さなお寺だった。

 ほとんど休むことなく元気に次の宿へと歩きだす。ちょっと歩いたところで、今はやっていない宿があった。予約の電話をしたときに、今はやっていなんですよ、と断られたところだった。どうして止めてしまったのかはわからない。この場所に宿があればとても便利だとも思う。でも、仕方のないことであり、少し寂しいことである。お疲れさまという気持ちでここを通り過ぎた。

 歩きながらこれからの予定を考える。地図を見る。今の時間から考えると、どう見ても11時くらいには予約している宿を通り過ぎることになってしまう(実際にこの宿を通ったのは11時だった)。翌日の宿に電話して、今日にして欲しいと変更する。そして今日予約していた宿にもキャンセルの電話を入れる。しかし、電話は留守電になっていて、ちゃんとキャンセルしたのは何度か電話を入れてからだった。どうにも申し訳ないような気持ちである。今回の旅でのキャンセルは2回目。もう少しうまく宿を取らなければと思う。

 予約していた宿の脇を通り、小さな国道か山の道へと入る。農家のおじさんにみかんを2コもらう。あとこのみかんをお昼ご飯にしたのだけど、ほんとうに美味しかった。みかん畑の脇を通って歩いていくと、登り道へとなる。けっこう急な道だ。どのくらい歩けるのか不安になる。この先、第20番、第21番のお寺にまわり、その後も山の中を歩き宿に行かなければならない。途中で止めることはできない。頑張るしかない。

 なんとか、やっとのこと第20番鶴林寺に到着する。Rさんがいる。彼は僕のキャンセルをした宿に予約をしていたはずだったのだが。そのことの話をすると、知らずに通り過ぎていたようだった。Rさんもここで宿のキャンセルの電話を入れる。

 この鶴林寺は山の匂いのするいいところだった。納経所のお姉さんがとても親切ないい人で、飲み水のある場所と次の第21番への道も教えてくれる。僕は水で顔を洗い、空いたペットボトルに水を汲む。

 Rさんと一緒に歩き出す。山の中の小道を下っていく。登るのは確かに辛いが、この下りも下り独特の辛さがある。足への負荷のかかる場所が違ったりする。転ばないように細心の注意も必要だ。僕は次第に歩く速度が鈍る。一緒に歩いてもほとんど他の人に先を越される状態だった。途中、静かな澄んだ1メートルにも見たいなような川がある。Rさんは、靴を脱ぎ素足を水に濡らしていた。彼の足は血豆が出来たりして、かなり辛そうだった。僕も足を水につけたい気持ちもあったが、靴を脱ぐのはどうにも面倒だった。座って腰を曲げるのも辛い。この時は歩いて少しでも先に進んだほうが楽だった。しかし、Rさんにはこの後、あっさりと先に越されてしまう。歩くことがかなり辛くなってきた。

 途中、とても綺麗な、平坦な場所があった。2メートルくらいの川が流れている。まるで宮崎駿の『もののけ姫』に出てくるような景色だった。しかし、ここで僕は悲しい気持ちになる。かなりの狭い道だったのだけど、廃車が置かれてあった。この旅では、忘れた頃にこうした見たくない不自然な、いわゆるゴミの捨てられている景色に出会った。一気に気持ちは沈んだ。しかし、悲しいことではあるのだろうけど、これも遍路の景色のひとつなのだろう。四国は異次元にある場所ではない。生活のある僕たちが生きている現実の世界というものか。

 山道は登りに入る。登ったら登ったら足は辛くなる。遍路ころがしとはまた違った辛さであるが、これはこれで大変だった。この日はこれまで相当な距離を歩いている。ただでさえ疲れているのに急な登り道。しかも、残り時間が少ない。5時までで納経所は閉まってしまう。ゆっくり歩いたとしても、4時半くらいまでには着くとふんではいるが、それでもやはり焦る気持ちがある。なにしろ山の中で自分ひとりしかいないのである。もう少しだ、もう少しだと自分に言い聞かせ、道しるべに励まされ、一歩一歩足を上にあげる。

 なんとか別の道からの分岐点のようなところまでたどり着く。ベンチがありしばしの休憩。何度目の休憩だろうか。急な登り道をヨタヨタと歩き、なんとか、ほんとうになんとか第21番太龍寺へと辿り着いた。

 Tさん、Rさん、Hさんなど知っている顔が。嬉しいものだ。ようやく着いたと思ったのに本堂はまだ先だった。この寺も静かでいいところだった。ロープウェイでここまで来れるようなルートがあるためか、遍路というよりは観光で来ているような人も何人かいるようだった。デートでこのいい景色を見に来たといった雰囲気。汗だらだらの僕たちとは全く異質な光景だ。

 この広い場所はやすらかな本当にいいところだった。他の人が先に出発しても僕はしばらくのんびりしていた。まあ、疲れていてもう少し休みたかったのだけど。これから宿までは下り道、一応車の通るところのようなので迷うこともなく、そんなに苦労することなく着くだろう。

 でも、この考えも少しばかり甘かった。ほんの数十分で着くと思ったのがなかなか宿は遠かった。どこまで歩いても同じような風景。だんだんと不安な気持ちになってくる。ひょっとして迷ってしまっていたならば、このまま暗くなってしまったならば、と山道はどうしようもない不安がある。

 それでもなんとか今日の宿である龍山荘に着いた。ああ、本当にこの日は今回の旅で一番しんどい1日だった。とまあ、毎日のように同じような感想を持って宿に入っていたのだが。

 宿の主人は夕食の支度中か呼んでもすぐに出てきてくれなかった。先に宿で休んでいた人に、いろいろと説明をしてもらい、中に入る。それから宿の主人が来てくれて、部屋へと歩く。2階の部屋だったのだが、階段を登ることすらとても辛かった。部屋はずっと奥の方。ほんの少しなのだが、それもまた辛い(笑)。部屋に入り、すぐにお風呂。普段は女風呂になっているようなのだが、この日は女性客が少なかったためか、男性の後に女性が入るとのこと。どうやら僕が最後に風呂に入る男性客のようだった。湯船は4、5人は入れるくらいの大きさだったろうか。両手両足を広げ、のんびりと。月並みの表現になってしまうが、ほんとうに気持ちよかった。

 この宿には洗濯機に乾燥機もある。すべて使用中だったが、これもまた嬉しい。部屋でちょっと休んでからすぐに夕食。ぜんぶで15、6人くらいはいただろうか。多くの人はビールを飲んだり、わきあいあいと語り合っていた。知っている人は、RさんとTさんと、Hさんである。Hさんは同じ日にスタートして初めて同じ宿になった。Tさんはビールを注文したが、ぜんぶ飲めないようで僕に飲まないかと勧めてくれる。正直なところ、冷たいビールは飲みたくて仕方がなかったが、この旅では酒を断っているのでひたすら我慢。周りの人をみても、夜ゆっくりと眠れるようにと、軽く酒を飲むという人の方が多かった。Hさんからは、カボスを入れた日本酒を勧められるが、これも断る(笑)。なかなか酒を断つというのは難しいものである。

 そんなに強い理由で酒を断っていたわけでもないが、普段の生活で酒を断つのは難しいので、今回はいい機会だと思ったのである。3食規則正しく食べて、夜中は何も食べない。酒を飲まない。当たり前のような生活なのかもしれないが、この数年こんな日を何日も続けたことはなかった。それが出来たというだけでもこの旅は貴重なものだったのだ。

 食べ終わってから、Tさんの部屋へ。マメの処理の仕方を教えてくれと言われて、ちょっと見にいく。別に教えるようなほどのことはないが、自分のやっていることの話をする。そして洗濯。階段の登り降りはどうにも辛かった。

 1階の食堂ではまだ何人かが話をしていた。僕も洗濯の終わるまでちょっと輪の中に加わる。みんな歩きの人なので、話は弾むのある。Hさんは、翌日で旅を終えるということであった。僕もどこまで行くか悩んではいたが、なんとか室戸岬までは行けそうでその気になっていた。区切りのいい場所ということであれば、第23番の薬王寺である。ここで終われば、鉄道を使って徳島まで戻ることができる。なんとか海を見たところで旅を終わるというのは、ひとつの終わり方だろう。

 Hさんは、翌日は同じ宿に泊まって送別会をしてくださいと皆に声をかけていた。もちろん断る理由はない。1人で旅をしているわけだが、たまにはこんなふうに一緒に予約をして宿に泊まることがあっても悪くはない。Rさん、Tさん、Yさん、Fさんと僕の5人で、すでにHさんが予約を入れていた薬王寺の宿坊に、ひとつの部屋で予約ということになった。宿坊というのはまだ泊まったことがなかったことと、この旅で初めて他の人と同部屋ということで、少しばかり不安はあったが、こでも四国の旅である。

 Hさんは今回の旅にとても満足している様子だった。宿の主人には、「私たちはみんな友達なのです」と元気に話をしていた。確かに、特別な親近感を持った仲間であった。話をしたことのない人であっても、同じ苦労をしている何かがあったと思う。


◎ 第1期 6日目:約28.5キロ / 2001年10月13日(土)
◆ 第19番 立江寺
◆ 第20番 鶴林寺
◆ 第21番 太龍寺
◇ 昼食:お接待でもらったみかん
◇ 宿:龍山荘





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