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四国遍路日記 第3期 5日目 
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四国遍路日記 第3期 5日目 2002年10月22日(火)


 6時半に起き、7時に朝食を食べる。日干し、卵、蒲鉾、炒め物、漬物、ご飯に味噌汁。とてもよく晴れた朝の道を出発する。ご主人は外のところまで見送ってくれた。この辺りは大きなキャンプ場にもなっているようだった。歩いている途中で、朝食をつくって食べている人の姿もあった。後から地図で確認すると、竜串海中公園などもある、けっこうな観光スポットのようだった。

 この日も距離的にそんなに大変ではない。のんびりと歩くことにしていた。金剛福寺から延光寺までは通常は2日かかるコース。それを3日かけていくわけなので、別コースとはいっても若干の余裕のようなものはあった。

 9時頃にトイレに入りたいということもあり、喫茶店に入る。「アシベ」という店は小さいけれど、雰囲気の良いところだった。おまけにコーヒーも美味しい。この日の午前中はずっとサニーロードという名前の海沿いの道を歩く。眩しいくらいの快晴。暖かい。僕にとっての四国というのはこの暖かさでもある。そして静かだった。国道とはいえ交通量はほとんどないに等しいような状態。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 灯台が見えてきた。名前は叶岬灯台という。良い響きの名前だ。近くに行くと、灯台のところまで行けるということがわかる。狭い道、薮を掻き分けこの叶岬灯台へと歩く。こういう道は気をつけて歩かなければならない。首を少し下げて菅笠で薮や蜘蛛の巣を掻き分けるようにして前へと進む。

 急に目の前に不思議な景色が広がった。それは、まるで映画『天空の城ラピュタ』に出てきたような芝生だった。小さな灯台に、青い空。波の音が聞こえる。人は僕ひとりしかいない。大げさな表現になるかもしれないが、まさに天国にいるかのようだった。

 けれど少し残念なこともあった。ゴミ箱が置かれているのだが、弁当箱やペットボトルなどのゴミが散乱しているような状態だった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 道はこの灯台からもっと先まで行けるようだった。岬の先端、崖というところまで歩いてみる。一歩足を踏み外すと落ちてしまうようなところに腰をかけ、少しボーっとする。青い海を見る。まわりには誰一人いない。それにしても、この叶岬という名前も良いではないか。まったく名前負けしていない。ここで海を見ていると、願いが叶うような気持ちになってくる。

 同じ話の繰り返しになるが、この遍路では地図の上でコースになっていながら、ほとんど通らない場所である。灯台の歴史という点でもこの叶岬灯台の方が足摺岬よりもずっと古い。観光地化されていない分だけ自然の景色はこちらの方が数段上である。僕は今回の旅で四国の約半分を歩いたことになるわけだが、この叶岬灯台が前半戦のMVPと言える景色だと思っている。人がどんどん訪れて店が建ち並ぶというのも寂しくはあるが、この場所はあまりにも知られていなさ過ぎるのではないだろうか。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 叶岬灯台へ入るところはちょっとした駐車場があり、ベンチがある。なぜか一匹の猫がいた。僕に近づいてきた。道路には一応車が通り、誰も人がいなという場所ではないが、この猫はどこから来たのだろうかと不思議に思った。

 また歩きはじめる。道はサニーロードから離れ、狭い道となる。月山神社というところを目指して歩く。小さな漁港を通り、素朴な田畑の景色を歩く。完全に国道からは離れてしまったので、ちょっと不安でもあった。一応舗装された道路なのだが、山道を登って行く。その道から、突然のように海の青い色が目に入ってきたりする。海沿いではあるのだが、少し高い位置からの景色になるので、特別な海の景色だったように思う。

 12時過ぎにようやく月山神社にたどり着く。海沿いの神社という景色を予想していたのだが、そうではなかった。山を降りて、民家の隣にある、小さな神社だった。軽く手を合わせる。

 お昼ご飯をどうしようかと悩んでいるうちにここまで来てしまった。この先、山道を歩かなければならない。国道に出たところで食事のできる店があるはず。ひと山越えるまでに食事は我慢することにする。しかし、このひと山がけっこう大変だった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 山というか、農道のような道をただひたすら歩く。ぽつんとたまに家はある。たまに車も通って行った。赤い遍路道を示す札もある。けれど、僕は迷ってしまった。どんどん歩いて行くと行き止まりになってしまったのだ。20分くらいのロスにはなってしまったと思う。ようやく遍路道に戻ったはいいが、ずっと不安な気持ちを抱きながら歩くことになった。それだけ道は曲がりくねっている。Y字路のように分かれているところは、どちらに行けばいいのかわからないところもあった。そろそろ国道に出てもいいと思うのに、なかなか状況は変わらない。車の通る音が聞こえると、もうすぐだと思える。けれど、その車の音は僕の脇を通り過ぎる。

 山を下り、国道が見えてきたときにその脇にコスモスが広がっていた。

 今回の旅では何度かコスモス畑というものを見てきた。この地方では道路沿いにコスモスをいっぱい咲かせているみたいなのである。道路の脇からコスモスを見るのも綺麗だのだが、この日の少し高い位置から一面のコスモスを見下ろすというのは特別な景色だった。

 このとき、2時くらい。何かお店はあるだろうと思っていたが、悩んでいるうちにどうでもよくなってきた。宮林商店というコンビニがあったので、おにぎりを2個購入。少し歩いたところのコスモス畑沿いで座って食べる。できれば広い休めるようなところがあればいいのだが、このときはなかった。でもまあ、車の走るのを見ながらの食事というのもたまにはいい。なにせ、隣にあるコスモスは綺麗なのだから。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 山の中のちょっと広めの国道をただひたすら歩く。別に景色がいいわけではない。写真を撮ろうという気持ちにもなれなかった。日本のどこにでもあるような景色の中を、ただひたすら、歩いた。

 ときどき、喫茶店のような店が目に入ったりもする。このまま歩けば4時くらいには宿に着いてしまいそう。宿に泊まりながらの遍路というのは、この宿に入る時間というのがどうしても気になってしまう。お風呂に入って、ご飯を食べるということから考えた場合、あまり遅い時間になっては宿の人に迷惑が掛かってしまう。ほんとうに早いところでは8時くらいに宿の電気が消えてしまうのである。食事はだいたい6時半くらいなので、その前にお風呂に入ることを考えると5時から5時半くらいまでには宿に入りたい。

 半分くらいは時間調整の意味もあっただろうか。途中に道の駅があり、そのレストランでコーヒーを飲む。遍路の白衣でこうした店に入るのは恥ずかしくはなくなった。けれど、身体全体が汗で濡れているのでその状態が恥ずかしい。

 どこまで行くか決めていない今回の旅はこの日で5日目。地図を見ているとどこまで行けるかはおおよそ見えてくる。あと4日歩いて終わることにしよう、とこのあたりで決めていた。これから先の4日間は峠を越えたり、距離的にも大変になりそうだった。でも、これまでが少しばかり楽すぎたのかもしれない。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 しばらく歩いて、大月という町の中心地と言えるところまで来る。役場があり、郵便局があり、スーパーマーケットがある。この日に予約を入れている「民宿なかた」という看板は見当たらなかった。スーパーのところで、買い物袋を持ったおばさんに声を掛けて聞いてみる。親切な対応だった。すぐ近くに宿はあった。この町にはもう一軒、宿があった。単に「なかた」という名前で決めたのだった。サッカーのナカタをイメージしてのこと。

 4時半頃に部屋へと入る。宿にはいろいろなところがるのだな、と考えさせられたところだった。泊り客は僕ひとりだった。2日連続で宿の泊り客が自分ひとりという状況。寂しい。ほんとうにこのコースを歩く人はいないのだなと思う。あとで他の歩き遍路の人と、この第38番金剛福寺から第39番延光寺へのコースについて話をしたとき。その人は、僕の歩いたところには宿がないということで考えなかったと言っていた。そういう意味では、泊まれてあたたかな食事があるということは十分に素晴らしいことなのだろう。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 夕食の品数は多くあった。もちろん、刺身もあった。鳥の唐揚げを食べるたのは久しぶりのような気がした。考えてみると、四国の宿では肉料理はあまり出てこなかったようだ。

 この日の夜もうまく眠ることはできなかった。テレビを付けて眺める。蒸し暑く何度か扇風機をつけたりもしていた。トイレに行くにはちょっと距離があって大変だった。 寂しいと言えば、やはり寂しい夜だった。けれど、遍路にはこういう日もあるのだと自分に言い聞かせる。


◎ 第3期 5日目:約30.3キロ / 2002年10月22日(火)
◇ 昼食:宮林商店 おにぎり2個 231円
◇ 宿泊:民宿なかた 5400円





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