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四国遍路日記 第4期 1日目 第43番 明石寺
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四国遍路日記 第4期 1日目 2003年3月6日(木)


 予定では朝の8時40分に松山駅に着くことになっているのだが、8時10分くらいに着いてしまった。このバスは、「高松・松山行き」ということもあり、半分くらいの客は高松の方で降りているようだった。東京駅八重洲口で見かけた四国遍路をやっているであろう人も、高松で降りたようだった。

 バスを降り、駅へと入る。途中にある喜多方ラーメンの店が目に入る。まあ、どこの駅でもこうした風景はあったりするわけだが、はるばる東京から松山に来て、最初に目に入ってきた大きな文字が喜多方ラーメンというのは、ちょっと寂しいものがあった。

 JRの卯之町行きの列車の切符を買い、トイレに入る。この松山は前にも来ているので、勝手知ったる場所である。それにしても、雨が降っていてとても寒かった。4回目となる四国であったが、こんなにも寒い四国は初めてだった。とても不安な気持ちになっていた。 あたたかなうどんでも食べたかった。立ち食いの店はあったが、電車の出発まで30分ほどの時間がある。できればどこかに座りたい。駅のレストランに入りモーニングセットBを食べる。このときに、納め札に自分の住所と名前などを書く。

 9時発の特急宇和海3号に乗る。前の旅ではこの逆のコースで乗っていた。外の景色を見ながら半年前のことを少しずつ思い出していく。区切り打ちで歩いているわけだが、列車からの外の景色は、少しは時間というものを埋めてくれるのかもしれない。靴を脱ぎ、裸足の足にテーピングをした。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 宇和海3号は10時22分に卯之町に着く。寒く、雨は止みそうもない。駅から出たところにあるトイレで、白衣を着て菅笠を被り、雨具を着る。手は冷たい。自動販売機で爽健美茶を買う。リュックのサイドに右手で入れる。少し気合を入れる。

 第43番明石寺へと歩き出した。

 実をいうと、どうしていいかよくわからないでいたことがあった。「区切り打ち」の進め方である。原則的には札所で終ったら、その札所から始めるというのがこの区切り打ちのようである。でも、これまで歩いている途中で区切り打ちの人に話を聞くと、必ずしもそうでなかったりしている。途中の駅とかバス停とかを区切りの場所として進めている人も多かった。実際にこの原則通りに区切り打ちをするとなると、交通の便の良いところでないと難しいことになってしまう。これまではこの原則を守ってきた。今回も、前回で最後だった第43番明石寺から始めるのである。でも、この先もちょうどよく交通の便の良いところで区切りよく行くのだろうか、という不安もあった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 原則通りでなくてもいいのであれば、この卯之町駅から次へと歩いてもいいことになる。明石寺は戻ることになってしまうのだ。交通の便がいいとは言え、実際問題としてこの卯之町駅から明石寺まで約30分ほどの時間が掛かった。往復で1時間。この日の宿までの距離と時間を考えた結果、この1時間歩いても歩かなくても泊まる場所は同じだったので、歩くことにしたが。

 そうした気持の中途半端なところもあり、この雨の中を歩いていくことはとても辛かった。道は前に歩いている逆方向なので迷わずに行くことができたが。晴れていれば卯之町の商店街を歩くのは楽しいはずなのに、と残念な気持もあった。舗装などが工夫されており、なかなか趣きのある雰囲気なのだ。前回は時間的な都合でゆっくり商店街を歩くことは出来なかった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 第43番の明石寺は、まさに霧の中という感じだった。

 前回の明石寺も少し雨が降っていたが、この日はほんとうに冷たく寂しい雰囲気だった。そんな中、桜が咲いていた。雨が降っていなかったならば、とてもきれいだったのだろう。手を合わせる。お賽銭を入れる。納め札を入れる。お線香と蝋燭と、いつも通りの参拝を行なう。僕の場合、納経帳への「重ね印」はやらないことにしていた。

 卯之町駅の方向へとまた歩き出す。同じ景色を歩くのは楽しくは無いが、こういうこともある。駅を通りすぎると、車の多く走る車道を歩くことになる。何の変哲のない道だ。どこにでもあるような郊外の国道。少し小雨になったりはしたが、空は暗い雲が覆っていた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 歩くということ自体はそんなに辛いということはなかった。寒いのが大変ではあったが、足が痛いということもなく、その点では順調だった。12時を過ぎて、お昼を食べるところがないかと探しながら歩く。BE-PALという雰囲気の良さそうなカフェレストランがあり、そこへ入ることにした。午後の1時くらいになっていた。洋風の外観もそうだが室内も、とても凝った店だった。若い夫婦でやっている様子。洋風のメニューがいくつも書かれている。他のメニューにも心は動いたが、無難に日替わりのランチにする。このランチは、寒さに震えている僕の心ととてもあたためてくれるものだった。ブリのテリヤキ、白身魚のフライなどの丁寧に盛り付けられていたのだが、ほんとうに美味しいものだった。白いご飯もあたたかく美味しい。これで650円とは安すぎないかと思えるくらいだった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 オアシスでのひと時が終わり1時半には店を出る。ここで宿に予約の電話を入れることにする。以前のPHSではとにかく電波の入らないところばかりだったので公衆電話を使うことが多かった。当たり前のことであるが、携帯電話は便利である。この日の夜の予約は問題なく取れる。翌日の予約もすぐに取れた。宿が取れればあとは心配事はない。道を間違えずに、ただ歩くだけだ。何も考えることなく、ただただ歩くのがいい。寒くて辛く、もう止めたい、なんてことも正直なところ思うけれど、気がつくともう東京の暮らしは忘れてしまっている。やっぱり四国を歩くのはいいな、と思える。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 道は、それなりに自然の風景が多くなる。雨で無かったら楽しい景色なのかもしれない。ガイドブックには鳥坂峠という遍路道が書かれている。「1時間余分にかかるが自然美豊かである」とあるが、この道は断念しようと思っていた。雨はだいぶ小ぶりにはなってきたが、こうした遍路道はやはり辛い。けれど、なぜかこの鳥坂峠を歩くことになってしまう。道を間違えてしまったのか、時間的に大丈夫だと踏んだのか、あまり記憶にはない。ただ、初日にいくらか無理をして歩くというのがこれまでの僕の区切り打ちの進め方だったりもしている。無理をすることで自分の体力を確認するわけだ。

 峠道に入るところには、「鳥坂番所跡」という古い案内書きがあった。確かに自然美豊かでいいところである。晴れていたならば、もっとこの景色を堪能できたのだろう。でも、雨のときにこうした山を歩くのも悪くは無いのかも、とも思い始めていた。木の下を歩くことになるので、雨にあたることは少ないのである。登りということで汗を掻き、カッパを着ている関係でとてもあたたかくなった。

 なぜか僕はこの峠道を歩きながら持ってきている文庫『海鳴り』のことを考えていた。主人公の人生はとても孤独だった。家族もいたわけだが、通じてないものがある。そうした中である女性に惹かれていく。その孤独な心情みたいなものが、この山の中をひとりで歩くことによって、少しは感じることができたのかもしれない。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 3時半頃に鳥坂峠を下り、普通の車道へと出る。宿まではあと6キロほどの道のりだ。山の中の車道を歩き、大洲市内へと入る。実はこの大洲という町はもう一度行ってみたいと思い出したりしている。街並みが古く、いい雰囲気なのだ。明治風とでもいうのだろうか。行ったりきたりしながら、狭い通りを歩いていた。肱川橋からの眺めも素晴らしいものだった。土手のところが城壁のような作りになっている。この町全体が、地元の人の熱い気持の感じられるものだったような気がする。大切に、大切にしているのだろうと。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 5時半過ぎにこの日の宿である、ホテルオータというビジネスホテルに入る。部屋はベッドではなく、畳に布団が敷かれてあった。でも、正直に言えばこの方がゆったりと眠ることができる。特に前の日は夜行バスで満足に寝ていない。今日も雨の中を歩き疲れていた。僕に必要なのは睡眠だった。

 部屋ではすぐに風呂に入った。そして、夕食を食べに1階にあるレストランへ。「ごちそうさま」という名前の店で、客は僕ひとりしかいなかった。ビジネスホテルなので朝食は付いているが夕食は別になる。メニューにはいくつかの定食類が書かれていたが、少し贅沢をしようと「カツオの叩き定食」を注文する。新聞を読んで待っていると、他に何人かの客が入ってきた。カツオの叩き、揚げ豆腐、キンピラゴボウ、サラダ、漬物などがあった。宿について気持がゆったりしたのかお腹が減っていた。ご飯はお代わりをする。

四国遍路の景色

 部屋で地図を見て翌日のルートを確認する。けっこう山の中を歩いたりするので、ただ単に距離を計算しただけではどこまで進めるかわからず、難しかったりする。しかも、3日目のコースは人によって違ったりしている。僕は第44番、第45番と順序よく行くことを考えているのだが、第45番、第44番と逆に行く人も多いみたいなのだ。どこに宿を取るかも悩むところ。3日目の夜の宿の予約の電話を入れる。実はある民宿に予約を入れたら断られてしまった。法事ということで、この日は宿を休むのだと言われた。家族でやっている民宿なわけで、考えてみれば当然こうした休みもあるわけだ。別の宿に予約を入れ、ひと安心する。

 少し文庫本を読んだのだろうか。とにかく、この旅では持ってきた『海鳴り』が面白く、ちょっとでも時間があると夢中になって読んでいた。一度読んだ本ではあるのだが、全く違った話のように読めてしまっていた。寝たのは9時半だった。朝まで、ほんとうにぐっすりと眠った。


◎ 第4期 1日目:26.5キロ / 2003年3月6日(木)
◆ 第43番 明石寺
◇ JR宇和海3号(松山−卯之町) 乗車券1410円 特急券1150円
◇ 朝食:松山駅レストラン モーニングセットB 500円
◇ 昼食:カフェレスト「BE-PAL」 ランチ650円
◇ 夕食:「ごちそうさま」(ホテルオータ内レストラン)
  カツオの叩き定食+ご飯お代わり 1050円+150円
◇ 宿泊:ホテルオータ 6750円(朝食のみ)





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