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四国遍路日記 第4期 4日目 2003年3月9日(日)


 早朝の5時くらいに一度目を覚ましトイレに行った。でも、今回の旅は毎晩ぐっすり眠ることができている。朝食を食べ、自動販売機で爽健美茶を買い、7時40分頃に宿を出る。

 空気が冷たい中、下りの車道を歩いていく。途中からは山の歩行だけの遍路道へと入る。昨日の道を反対に歩くことになる。途中で、歩き遍路の人とすれ違う。コースがひとつではないこと、同じ道を戻らざるを得なかったりもしているので、こうしたことがあるがどうしても不思議な感じがしてしまう。なぜか下りですれ違うときの方が、明るい表情で挨拶ができてしまう。

 この日も忙しい、厳しい1日であることは間違いないだろう。でも、乗り越えれば楽になりそうな気もする。この先の状況がわかっているわけではないのだが。こういう厳しさを乗り越えてこその遍路だと自分に言い聞かせ、ただひたすら歩く。寒いことには変わりはないが、雨が降っていないというのはやはり嬉しい。

 1時間ほど歩いたところで、道を右に曲がり山の遍路道へと入る。千本峠というところだ。ここは高い木が多く、いかにも森の中という雰囲気があった。途中のちょっとした休憩所で、歩き遍路の人と出会う。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 10時くらいになって国道33号にでる。あまり広くはない道なのだが、車の交通量が多く、かなり注意深くなって歩いていた。前の方に2人ほど歩き遍路の人が見える。なんとか追いつこうと頑張って歩く。

 この2人は老夫婦だった。歩きながら少し話をする。区切り打ちの初日ということだった。僕が見かけた少し前のバス亭からがスタートだったのだという。何日も連続で歩いているわけではなく、区切り区切りでここまで来て、これから先も続けていくのだと。2人はぴったりと一緒に歩くということではない。一定の距離を置いて、必要なときだけ話をしている。たぶん、年齢は2人とも70歳を超えていたのではないだろうか。けれど、どう考えても僕なんかより、足腰はしっかりしていた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 問題が生じてきていた。もの凄く寒い。山に上っていくこの道は、山の観光道路のような雰囲気だ。冷たい風が厳しくなってきていた。軍手をしていても、手は冷たくなってきている。途中の自動販売機でホットココアを飲む。ときどき頬にそれを当てる。

 休憩所があった。晴れた日であったならば、景色のいい場所なのだろう。周りの景色を楽しむような余裕はなかった。少し先は山の歩行者だけの遍路道となる。その前に宿の予約をしなければならない。この休憩所で、この日の夜と翌日の夜の宿の予約の電話を入れることにした。震える手でガイドブックを開き、電話をする。

 有名な道後温泉は前に道後温泉本館に入ったことがあるので今回は断念し、その前の第49番浄土寺の近くに宿を取ることにする。ガイドブックには2軒載っている。どっちがどうなのかは全くわからない。なんとなく、で電話を入れる。新館は空いていないが休館は空いています、という返事。もちろん贅沢をするわけでもないので、値段が安いという休館の方がいい。翌日の夜は、JR北条駅の近く。こちらも2軒ある。予約は取れた。安心はしたがとにかく寒い。予約を取ったこの日の宿はたかの子温泉という名前。あたたかな温泉につかることを思い浮かべ、前へと進んだ。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 12時少し前だったのだが、三坂峠というところまで辿り着く。ここからは車道と別れ、歩行者だけの山の遍路道を下っていく。しかし、新たなる問題が。地図の上ではこの場所にドライブインがあり、僕はここで昼食を取ろうと考えていた。暖かな部屋でパスタでも食べたらどんなに幸せだろうかと。けれど、無残にもその夢は打ち崩された。ドライブインは建物としては残っているが、もう何年も前に閉店した廃墟となっていた。悲しい気持で遍路道へと入って行った。

 実はこの遍路の旅では、手帖にその日の出来事をできるだけ書いたりしていた。日にちが経つにつれて、しだいに書かれているメモは少なくなってくる。この日はほとんど何も書かれていない状態だった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 山の遍路道といっても、下りということもあるがそんなに大変でもなかった。少しずつ暖かくなっていくんだ、というのが感じられることが嬉しかった。1時間弱でこの遍路道を抜ける。途中できれいな桜を見かける。

 お遍路さんの道の駅という休憩所があった。遍路姿の等身大の人形が立っている。置かれているもののひとつひとつがユニークだった。座って少し休むことにする。嬉しいことに、みかんなどの食べ物が置かれている。お接待ということらしい。僕にとって、お昼ご飯となった。テーブルの上にはノートが置かれていて、遍路の人の感謝の気持などが書かれていた。この道は歩き遍路の人しか通らない道なのだ。特別なノートのように思えた。中には、雨で大変だったなどというものもあった。僕も、ひと言ふた言、感謝の気持を書く。

 のどかな町の景色へと入っていく。かなり暖かくなっていた。空も青い。 長珍屋という旅館があった。昨晩、その前と同じ宿に泊まった夫婦はここに泊まるという話だった。そのすぐ近くに第46番浄瑠璃寺があった。そんなに大きくなかった印象があるが、まわりの木がまさに緑色に茂っていて、落ち着いたとてもいい雰囲気のところだった。  参拝が終ったのが午後の2時10分頃。5時までに第49番浄土寺に行けるか少し心配になっていた。

 第47番八坂寺はすぐ近くにあり、波打つ砂の地面がとてもきれいで印象的だった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 急いで次へと。途中、池があったのだが、ここは不思議な雰囲気のところだった。  静かな住宅街を歩く。平凡だけれど、ひとつひとつの家に趣きのようなものがある。不思議なことにあまり外を歩いている人は見かけなかった。道はまた交通量の多い国道へと移る。久谷大橋というところを渡る。そろそろ第48番西林寺なのだが、どこから入っていいのかわからずうろうろしてしまう。小さな橋があり、西林寺はあった。

 この日の午後は晴れていたからだろうか。どのお寺もきれいでとてもいいところのように思えた。陽の光で印象が変わってしまっているのだろうか。建物の木の色、空の青、草木の緑とその木陰となった色が、鮮やかな色彩となっている。たまたまなのか、お参りをしている人は少なかった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 このときで時間は午後4時。あと1時間。遍路の旅でせわしなく時間を気にするのは良くないのかもしれないが、できれば今日のうちに第49番浄土寺の納経を終らせたい。宿はすぐ近くなので、翌日の朝でも可能なことは可能なのだが、目標を定めたからにはちゃんと到達したい。たぶん、ここまで頑張ろう、というのがあるからこそ気力が続くのかもしれない。自然と足の痛みも感じなかったりする。後から痛さを感じるのだが。浄土寺まで3.1キロである。

 しかし、浄土寺の目前のところで迷いに迷った。歩いている人に聞いても、わからない人もいた。後になって地図を見るとそんなに迷うようなところでもなかったのだが。狭く車の交通量の多い道から入ったところに浄土寺はあった。特に夕方の時間は足がふらふらしてきているので、この道はけっこう慎重になって歩いた。その入り口を見つけたのは4時40分頃、信号がなかなか変わらなくていらいらしてしまった。でも、なんとか5時には間に合った。

 この浄土寺ではほとんど1日が終ったという感じでひっそりとしていた。近所の子供達が遊んでいるようだった。少し夕方の涼しさが漂う。僕はお参りを終らせ、ベンチに座った。5時の過ぎていく時間をぼんやりと見守った。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 線路を渡ってすぐのところのたかの子温泉というこの日の宿は、かなり凄いところだった。大きなホテルである。しかも、この温泉は多くの人が入りにきていて、クアハウスのような感じでもある。建物の前は大きな駐車場で、どんどん車が移動している。まわりにもいくつかの飲食店があり、多くの団体客が来ているという雰囲気。

 フロントに行って名前を言うと、係の人が「旧館になりますので」と言って案内してくれた。玄関を出て、この敷地の入り口の方へと移動する。そこにあったコンクリートの古びた建物が旧館だった。なんと入り口のところには、「歓迎」という文字と共に僕の名前が書かれていた。

 でも、なんとなくイメージが違ってしまったことは否めない。温泉+旧館ということで木の建物だとばかり勝手に思い込んでたからだ。その旧館には旧館のフロントがあり、そこで地図を渡されこの宿の説明を受ける。何しろ広い。単純に広いだけでなく、旧館と本館の間に渡り廊下があったり、演舞場があったり、迷路のようになっている。お風呂は旧館の泊り客専用のものと外部の人も入る新館のものとがある。どちらも入っていいとのこと。

 部屋はそんなに悪くはない。古風というか古ぼけた感じのお風呂もついている。しかし、旧館と言われた通り、廊下などややくたびれた雰囲気があった。けれど部屋でこのホテルのパンフレットの宿泊料を見ると、旧館(本館と書かれてあったが)が1名以上の場合7500円に対し、新刊は2名1室利用で11400円からとなっていた。

 さっそくお風呂に入りに行く。演舞場の脇の、なんというか関係者だけが通るような廊下を通る。宿泊客だけのお風呂というのは渡された地図には載ってなく(鉛筆で書いてもらったが)、どこから入ったらいいのかよくわからなくてうろうろしてしまう。この日は道にも迷い、宿の中でも迷っていた。ようやく見つけたそのお風呂には、2人ほどしか入っていなかった。しかも僕が入ったところでこの人達はあがってしまい、ほとんど僕がこのお風呂を独占することになる。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 普通の銭湯ほどの広さ。見かけは何の特徴もない。しかし、お湯につかると驚いてしまった。お湯がやわらかいのである。ねばりではないのだけど、とろ〜りした感じがする。何度も手ですくい、このやわらかさを味わう。こんなに気持のいいお湯につかったのは初めてのことだ。前に道後温泉本館の風呂に入ったことがあるが、こちらの方がずっといいと確信できる。書かれてあった説明書きにも、道後温泉よりもこのたかの子温泉の方がいい、みたいなことが書かれてあった。でも、何度でも言えるがこの温泉は素晴らしい。温泉のお湯というものが、ただ温かいだけでなく、こんなにも特別だということを僕は初めて体験した。この日の疲れは、まさに癒された。癒される、という言葉はあまり好きではないが、こういう時にこそ使うのではないかと思った。

 この宿の驚きは温泉だけではなかった。夕食はこの旧館の広い食堂でだった。中に入ると、食事が置かれていたのだが、ほんの10人分にも満たないものだった。たぶん、100人以上は入れるような場所なのに。ひとりはもう食べ終わったようだった。翌日になってから2、3言葉を交わすことになるのだが、かなり高齢のおじいさんだった。80歳を超えていたのではないだろうか。おじいさんも歩き遍路なのである。かなり遠方から来ているらしかった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 席に着くと、溢れんばかりに料理が並べられていた。数を数えたのだが、10皿以上はあった。溢れんばかり、というよりも正確に言うと、普通の感覚の2人分の席のスペースを料理が締めている。皿が大きいということではなく、どれも美味しそうな料理が山盛りとなっている。肉と魚の料理のあれこれ、サラダも凝っている。たぶん、間違いなく、東京でこの料理を食べたならば、ここの宿泊料金の2倍は取られてもおかしくない、そうした内容だった。

 普通のときだったなら、これだけの量は食べられないだろう。でも、旅の途中の僕は全てをたいらげることができた。美味しいからどんどん入ったというのは言うまでもないが。 少し離れた席では男性2人が語り合いながら食べていた。話の内容が耳に入ったのだが、どうやら自転車で遍路をしているらしかった。雰囲気として、このホテルは歩きや自転車といった遍路の人がこの旧館に泊まっているようだった。

 それにしても、お湯といい料理といい。信じられないような内容。これで7500円なのだ。たぶん、間違いなく温泉と言えば、知名度として道後温泉だろう。ほんの数キロしか離れていないが、ここは大きな穴場と言えるところだ。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 食事が終って少し部屋で休んでから、またお風呂に入りに行く。本当は2回も入ったならばかえって疲れてしまい、翌日に響いてしまうかもしれない。しかし翌日は約31キロの距離で難所があるでもなく、比較的楽と考えてもいいような雰囲気。それに、もう一度ここのお湯に入りたかった。

 先ほど入った宿泊客専用ではなく、今度は新館の大浴場へと行く。さすがに人は多くごちゃごちゃしていた。けれど、とにかく広さがある。嬉しいのは露天風呂もあったことだ。僕はその露天風呂に浸かり、空を見ていた。月がきれいに見えて、素晴らしい景色だった。

 9時頃に眠りに着く。夜中の2時半くらいに一度目を覚ます。でも眠れなくなるようなことはなく、十分な睡眠をとることができた。


◎ 第4期 4日目:約32.1キロ / 2003年3月9日(日)
◆ 第46番 浄瑠璃寺
◆ 第47番 八坂寺
◆ 第48番 西林寺
◆ 第49番 浄土寺
◇ 昼食:お遍路さんの道の駅にてお接待のみかん
◇ 宿泊:たかの子温泉ホテル 8025 円





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