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四国遍路日記 第4期 3日目 2003年3月8日(土)


 朝は6時に起きる。この日はかなりの距離を歩く必要がある。よくわからないが、山の中の遍路道もある。たぶん、今回の旅では一番の難所かもしれない。気合が入る。外は晴れている様子だ。嬉しい。

 6時半に朝食である。生卵、漬物、海苔(食べなかった)に、ご飯と味噌汁を元気に食べる。食べ終わったあとも、おばあさんと少し話をした。正直なところ、このおばあさんはけっこうな歳である。こんなことを書くのは失礼かもしれない。仮に僕がもう一度、四国遍路の旅をやったときに、この宿に泊まりたい。でも、大丈夫だろうか。またこのおばあさんの話を聞きたいと思う。

 宿を出てからも、入り口のところに立ってずっと見送ってくれた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 歩き始めたとき、何台かの自転車が走っていった。自転車でこの四国遍路を行なっているのかもしれない。少し歩いたところにあった自動販売機でお茶を買う。ペットボトルではなく、缶のものを買い、使っていたペットボトルに入れ替えて使うことにする。暗かった空がしだいに明るくなってくる。地面などはまだ前の日の雨が残っている感じだが、少しずつこれから晴れるだろうという気配がある。

 8時20分頃に三島神社というところに来る。先に出発していた隣の部屋の夫婦をここで追い抜くこととなる。おばあさんから教えてもらった通りに、ここから山の遍路道に入る。車道の場合はかなり回り道をすることになり、この道を歩いた方が時間の短縮になるということだった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 そしてまた車道へと出る。道路はとてもちゃんとした舗装で道幅もけっこう広い。ところどころが工事中だったりしている。しばらく歩いたところで目印となる新真弓トンネルを歩く。車のほとんど通らない長いトンネルというのも、あまり歩きたくないところである。とにかくこの日の午前中は休むことなくひたすら歩いた。この後の午後からの行程がどうなっているかわからないので、進めるだけ先に進んでおきたかった。同じような舗装のコンクリートをずっと歩いていたからか、足はかなり疲れてきていた。でも、空はところどころ青空だ。これは嬉しかった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 10時20分頃に伊予落合という分岐点に付く。朝の7時から歩き通しだったわけで、3時間20分で約14キロを歩いたことになる。でもこの日の先は長い。これから20キロほどを歩かなければならない。

 この分岐点を右に曲がれば、第45番の岩屋寺に行くコース、左に曲がれば第44番の大宝寺に行くコースとなる。僕は左に曲がる。距離的には少し長くなるみたいなのだが、順番通りに行きたい性格なのである。

 良い雰囲気の川の景色を見ながら歩いていく。やや道は狭くなるところもあった。大型のダンプカーの行き来が多かったりした。11時半くらいになったところで、やっとこれまでの山道を抜け、久万町というところに出た。ところどころに家があり、店がある。山道も自然の景色があって悪くはないが、町に着いたらそれはそれで落ち着く気持になる。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 しばらく歩いて12時頃に第44番大宝寺に着いた。でも、この寺は入り口となるところから先が遠かったような気がする。おみやげ物屋さんでお茶のお接待を受ける。今回の旅では初めて。美味しかった。この頃には、天気はとても晴れた状態。太陽の光が輝いていた。人も多かった。団体客が来て、急いで納経を済ませたりもした。でも僕は、この大宝寺ではなんだかのんびりした気持になっていた。ベンチで少し目を閉じて休んでいたりもしていた。実はこの日はこれからが大変だったのだが……。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 地図に出ていた食べ物屋さんを探しウロウロする。大宝寺にもその店の案内のようなものがあったので、そこで食べようと思ったのだ。どうしても店がわからかなく、かなり歩いてしまった。見つからなくてコンビニで何かを買おうかと悩んだり、無駄な時間を使ってしまう。なんとか「みどり」というその店は見つけることができ、少し遅めのお昼ご飯を食べる。うどんを食べたかったのだが、かなり腹が減っていたので、肉うどん定食というセットものを注文した。美味しかったが、なかなかの量だった。ここはお土産やさんでもある。前の日に買わなかったトレーナーのようなものがあればと思ったが、無かった。

 外は天候が変わり、太陽の光は無かった。なんと雪が降ってきていた。四国に来てから、半袖のポロシャツの上にウインドブレーカーを着て、その上に白衣を着ていた。いくら寒かったとはいえ、これまではそれでも大丈夫だった。この上にビニールのカッパを着て、僕はこの雪の舞う吹雪の中を、難所と言われている岩屋寺までの道を歩くこととなった。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 まずは車道をずっと歩いていく。途中から歩行だけの山の遍路道へと入る。途中でまた車道に入ったりもしたが、天候は良くなったりひどくなったり、いろいろだった。

 時間は午後の4時くらい。納経帳は5時で終るのでその時間も心配になってきた。宿に関しても、予約のときには確か5時くらいまでは入るように言われていた。宿坊ではないので、こうした時間はそんなに厳密ではないだろうが、山の中にあるような場所なわけで、遅い時間になれば不安はある。

 八丁坂という遍路道は特別な厳しさだった。修行の霊場と言われている場所でもある。登り道は急で大変なのだけど、このときの雪が一番激しく、道も白くなっていた。ビニールのカッパが汗で熱を出している身体を包んでくれるので、身体自体はそんなに寒いというわけではない。でも、顔などはどうしようもなく、何がなんだかわからない厳しさが僕に襲い掛かるのだった。冗談抜きで悲しくなっていた。笑うしかなかった。

 山の天候はほんとうに変わりやすい。木で覆われた中から抜けると古い建物が見えてきた。空は青い色が見えてきた。やっと、第45番岩屋寺に着いた。時間は4時半、なんとか間に合った。

 実際には本堂は最初に見た建物より、もう少し先にあった。その特異なお寺に僕は驚く。事前に写真でも見ていたらこんなに驚くことはないのだろうが。本堂は岩へばりついているというか、一体化しているような感じになっていた。高い山の上で、幻想的な雰囲気を持っている。人間の生活というものとは、遠く離れたところだった。

 ここでお参りしている人達は遍路の人だけでなく、観光で来ている人も多いような雰囲気だった。明るい空の下、多くの人の話し声が聴こえる。ほんの少し前までの、まわりに誰もいない吹雪は何だったのだろうかと感じていた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 もっとゆっくりしていたい。このまま陽の沈む時間の中にいたら、どんなに素晴らしかっただろうかと後になって考える。けれど、この場所からこの日の宿である国民宿舎古岩屋荘というところまで3キロある。かなり疲れていたので、これからの歩きの時間も厳しいであろうことはわかっていた。

 多くの石仏のある長い石段を下っていく。かなり急でもあった。これが上りだったなら、かなり厳しいのではないかと感じる。

 バスなどで年齢の高い人が遍路を行なっているのを見かけるが、この岩屋寺のように駐車場から自分の足でかなり歩かなければならないところもけっこうある。大変だろうとは思う。ただ、こうしたところの方が景色は良く、来て良かったと感じるところだったりするのだが。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 僕はかなりの急ぎ足で宿までの道を歩いた。途中で宿に電話をして、おおよその着くであろう時間を告げる。

 ここは歩行だけの遍路道なのだが、かなり歩きやすく整備されている。傍には小川が流れていたりしている。誰もが気楽に歩くことを楽しめる道になっているのだろう。時間を気にし、汗を掻き、あまり景色を楽しむ余裕もなかったが。それにしても、そんなに遠くないと思って歩き始めたのだが、なかなか遠い道のりだった。大きなこの国民宿舎の建物を見たときには、嬉しくて泣きそうな気持だった。

 5時半頃にこの宿に入った。たぶん200人以上は泊まっているような大きなところだった。夕食の時間を聞かれ、考えた末7時と答える。ゆっくりと風呂に入りたいと思ったからだ。汗だらけの身体は、受付の人には少し異様に見えたかもしれない。階段を上るのにも、足は辛い状態となっていた。途中で今朝一緒に食事をした若竹旅館に泊まった夫婦と会う。僕とは別のコースでこの日岩屋寺に行ったところで翌日に第44番大宝寺に行くとのこと。岩屋寺の長い階段がとても厳しかった、と話をしていた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

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 部屋に入り、まずはバタンと横になる。それから風呂へ。大浴場ということで楽しみだった。お風呂の入り口のスペースにコインランドリーのあることを発見する。部屋に戻り、洗濯物と小銭を取ってくる。広い宿のため、移動が大変だった。普通だったら何でもないのだろうが、階段がとにかく辛い。足が痛かったのだ。

 お風呂はとても広く良かったのだが、ちょうど若者の団体客がどっといるところだった。考えてみたらこの日は土曜日、それに春休みの時期でもある。何かの合宿で泊まっているような感じの人達だった。わいわいとうるさく、あまり落ち着くことはできなかった。それでも、吹雪の中と比べたら天国ではあった。

 自動販売機で飲み物を買った。飲みながら洗濯を待つ。洗濯が終ったところで乾燥機に入れる。7時まではまだ時間があったので、ボーっとして外の景色を眺めていた。

 食事は1階の広い食堂である。多くの人はもう食べ終わっているような雰囲気だった。食事にはランクがあるように、他のテーブルを見ると、けっこう違うものが並んでいたりしていた。僕のは一番安い方のメニューとしていた。それでも、さしみ、焼肉、焼き魚、煮物、茶碗蒸しなど、ちゃんど豪華なものが並んでいる。ご飯はおかわりもして、腹いっぱいに食べた。「くう、ねる、あるく」というのが僕にとっての四国遍路である。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 部屋に戻り、翌日のコースの検討をする。どこまで行けるのか、何度も距離を計算した。いよいよ松山まで行けるか、その手前かとても悩む。できれば松山の道後温泉に泊まりたい。距離的にはなんとか行けなくもないが、お参りする寺の数が多く、そこで時間を取られることになる。それに、翌日の朝食は7時から。食べて出発するのは7時半くらいになってしまう。小さな遍路宿では6時半に朝食のところもあるし、そうでなくてもお願いすると早い時間にしてくれるところもある。けれど、この国民宿舎のようなところは7時という時間にこちらが合わせるしかない。

 予約は翌日にすることにし、9時頃に眠りにつく。


◎ 第4期 3日目:約32.6キロ / 2003年3月8日(土)
◆ 第44番 太宝寺
◆ 第45番 岩屋寺
◇ 昼食:「みどり」肉うどん定食 840円
◇ 宿泊:国民宿舎 古岩屋荘 宿泊料5200円+夕食A+1800円+朝食800円





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