四国遍路日記 第4期 10日目 2003年3月15日(土)
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目を覚ますとやはり雨だった。しかもかなりの大雨。気持を引き締め、歩く決意をする。まだ朝は早く薄暗い。食事をして、7時に宿を出発する。JR三島駅までは約10.7キロ。雨ということで休むことなく、どんどん歩いていた。寒く、歩いて前へ進むしかなかった。かなり速い速度だったと思う。 途中で走っていた車が止まった。8時20分頃だった。助手席から小さな女の子が僕の方へ向かってきた。とても可愛らしい子で、いくらか恥ずかしそうに僕にお菓子の袋を差し出した。ロッテのチョコパイだった。運転席に座っている女の子のお母さんであろう人は、軽く僕に会釈してくれた。これは僕の第4回目の四国遍路の旅を締めくくる、忘れることのできないお接待だった。
受け取ったときにはもらってもいいのだろうか、という気持があった。お接待というものは、断ったならば失礼になることはわかっている。けれど、あとほんの数キロ歩いて僕の今回の遍路の旅は終わりとなるのだ。旅の途中というよりも、帰りの新幹線のことの方が気になっているという気持の中にいた。
1年以上経った今になってもチョコパイを差し出してくれたこのときのことはしっかりと覚えている。チョコパイのお接待は、今も僕の四国遍路のエネルギーとなっている。
9時過ぎにJR伊予三島駅へと着いた。9時43分に岡山行きの特急があることを確認して切符を買う。5時過ぎには東京に着く計算になる。時間まで少し時間があったので、雨の中、駅前を少し歩く。第65番三角寺に行くことも可能だったかな、といくらか後悔する気持もあった。けれど、この雨では山の遍路道がちゃんと歩けるかはわからない。タクシーを呼ぶにしても時間が読めない。後になって、時間とJRの時刻表と照らし合わせてみても、今回の決断はベストなものだっただろうと思う。
駅でビニールカッパを脱ぐが、ほんとうに雨でびっしょりだった。キヨスクでお土産を買う。ほんの知り合いにだけで全部で2880円だった。ほんとは四国にしかないようなものがいっぱりあり、自分のものも含め欲しいものはいっぱいあったが。あたたかな缶コーヒーを買ってしおかぜ10号に乗り込んだ。途中の景色は意識的にあまり見ないようにしていた。次の遍路の旅で出会うかもしれない風景だからだ。そう言えば、2回目の旅で高知から東京に帰るときも瀬戸大橋は雨の景色だった。いつか見晴らしのいい瀬戸大橋を見てみたいものだと思う。
岡山駅に着いたのが11時少し前。新幹線ひかり号の出発まで少し時間があったので、じゃこ天うどんを食べる。寒かっただけに、美味しく僕の身体を温めてくれた。
11時22分発ひかり118号に乗る。自由席なのだが、最初は喫煙車の方に乗ってしまった。禁煙車で席を探したがこちらは満席だった。後になり、いくらか人の出入りがあったところで、大きな荷物はそのままで身体だけ禁煙車の席に座っていた。ワゴン車のコーヒーを買う。300円だが、四国遍路の旅を締めくくるコーヒーだった。
15時16分に東京駅に。1時間ほどで自分の部屋へと帰る。実はこの翌日、朝からまた新幹線に乗らなければならない用事があった。普段遠出をすることのない僕しては、かなり疲れるスケジュールである。旅の余韻に浸るような時間はなかった。翌日の準備をして、あとは寝るだけだった。
あとになって気がついたことがある。毎日テーピングはしていたが、足の裏は豆が出来るということもなく、前回までの旅とは全く違った状態だった。最初の頃は、毎晩手入れをしたり大変だった。慣れてきたからなのだろうと思っていた。けれど、時間が経って冷静に考えてみると、気候というものが大きかったのだろうと思うようになってきている。寒いということで、そんなに汗も掻くことはなかった。靴の中の状態としては、そんなに負担はなかったのかもしれない。
なにはともあれ、残りあと少しというところまで来た。漠然としていた第88番大窪寺というところが、具体的な目標となってきた。
◎ 第4期 10日目:約10.7キロ / 2003年3月15日(土)
◇ JR伊予三島駅−東京駅 乗車券11050円
◇ JR伊予三島駅−岡山駅 特急券570円
◇ JR岡山駅−東京駅 新幹線 5660円
◇ 昼食:JR岡山駅 じゃこ天うどん 410 円
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