四国遍路日記 第1期 5日目 2001年10月12日(金)
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朝食の時間を6時半から8時半にずらしたのだが、7時くらいには目が覚めて7時半には朝ご飯を食べてしまう。さすがにビジネスホテルというだけのことはあり、お遍路さんなんてやっている人は誰もいない。ほとんどは、何かの工事とかで泊まっているような雰囲気だった。食事は普通の和食で、とてもおいしかった。
身支度をして、8時過ぎにホテルを出る。少しばかり街をぶらぶらと歩く。この徳島市の駅前の雰囲気はなかなか良いのである。駅からちょっと歩いたところには川があり、歩くのにはいい雰囲気、あとちょっと歩くと山がある。恋人たちが歩くにはとってもいい感じなのであった。
ぶらぶら歩いていても仕方がないので、次のお寺に向って歩き出す。どう考えてもこのまま歩いていくならば、午前中に着いてしまうかもしれない。どこか喫茶店などがあれば休みながらゆっくりと歩こうと思う。
東京と変わることのない、交通量の多い道をただひたすら歩く。あまりお遍路さんがいるという雰囲気ではない。でも、恥ずかしさはなくなっていた。
どうしようか考えていたことがあった。荷物を送ろうかどうかである。こうやって、平地を歩いている分にはなんとか背中の荷物を持つことはできるが、山を登るとなるとかなりキツイ。3日目の遍路ころがしほど厳しくはないかもしれないが、この先山を越えなければならないのである。どのような所なのか見当もつかない。荷物を送るのであれば今がチャンスだった。地図を見て、郵便局をチェックする。川と渡ったところにある八万郵便局というところで、箱を買い中に使わないであろう荷物を詰める。例えば寒いかもしれないとトレーナーを持ってきていたのだけど、こうしたものも送ることにする。あとで後悔したものもあったのだが、いつまでも考えていてもキリがない。荷物を預けるとともに、トイレを貸してもらう。正直なところ、こういうことを言うのはちょっと恥ずかしかったのだが、局員の人は気持ちよく奥の方へと案内してくれた。
住宅の密集しているようなところを通り過ぎ、大きな国道へと出る。コンビニの「ローソン」があったので、チョコレートとアイスクリームを買う。チョコレートは非常食として。腹が減ったときのためにカロリーメイトは持っていたのだけど、口の中でもぐもぐして全く食べられなかったのでこれならいいかな、と思ったのだ。でも、あとでこのチョコレートを食べることはあったのだけど、やっぱり乾いた口にはあんまり美味しく食べられなかった。アイスクリームは美味しく食べる。甘いもの、冷たいものがついつい食べたくなってしまうのだ。
会計のときに店員のお兄さんに「またお越しください」と言われる。遍路スタイルのこの僕はまたこのローソンに来ることはあるのだろうか。
しばらく歩くといろいろなよくある国道沿いの店が見えてくる。ちょっと早い時間だけれど、お昼ご飯を食べることにする。時間は11時10分。この日の時間の使い方は贅沢だった。まあ、こういう日を持つのもいいだろう。食べるものはスパゲッティーと決めていた。まあ、たまにはこういうものを食べようと。食べたくなっても食べられるお店が山の中とかにあることは少ないだろうからだ。
ファミレス『ガスト』に入り、「和風きのこスパゲッティ+サダラセット」を注文する。それなのに、ウエイトレスさんが持ってきたのは、和風きのこスパゲッティとご飯と味噌汁だった。間違えて和風セットになってしまっていた。僕が間違えて注文したのだろうか。疲れているので、自分が間違っていたのかもしれないという不安もないことはない。でもさ、いくらなんでもスパゲッティーとご飯と味噌汁を一緒に食べたい人ってそうそういないと思うけど。東北育ちの僕は、ご飯とお好み焼きまでは理解はできる。お弁当のおかずにトマトケッチャップ味のスパゲッティーが入ってるのも理解はできる。しかし……。セットに付くスープはセルフサービス飲み放題だったので2杯も飲む。
12時を過ぎ、さすがにこの店も混んでくる。僕は水を飲み、ノートに日記のようなものを書いていた。この店からはすぐ外の通りが見える。ひょっとしたら歩き遍路の人が通るかなと思っていたが、まだそうした姿は見えない。遠い昔、歩くことが唯一の交通手段だったころ、こんなふうに通る人を見ていたりしていたのだろうな、と思ったりしていた。
地図を見てこれからのことを考える。実は今回の旅でどこまで行こうか、まだ決めていない。23番か、24番か。なんとか24番の室戸岬まで行くことができそうだが。もう少し先に行かないことには、目標を決められなかったりしている。
12時半頃に店を出て歩き始める。同じような景色を1時間ほど歩き、第18番恩山寺へと到着する。とても静かな場所だった。時どき、鐘の音がする。あとは小鳥のさえずりの音。遠くで車や列車の走る音も聞こえてくる。この寺は少し小高い山の上にある。自動販売機はないみたいだった。でも、静かなよい場所であるならば、かえって何もないほうがよかったりする。
僕はベンチに座り、本を読み、ノートに日記を書いていた。この寺にいる参拝者は僕を含め、2人か3人なんてこともあった。そんな場所で僕はペンを走らせ、ときにはベンチに横になったりしていた。2時間くらいはこんな感じで時間を過ごしていた。遍路を歩くことは、もの凄く贅沢なことだと人から言われたことがあったけど、こんなふうに歩くことなく、ひとつの寺で長くゆっくりした時間を過ごすことも贅沢なことだったのかもしれない。宿の予約がうまく取れなかったということはあるのだけど、ここでの休憩は貴重な時間だったのだろうと思う。
参拝の人が少しずつ増えてくる。Tさんが驚いた顔で僕に声を掛けてくれた。Hさんともようやくの再会。どこかで会おうとか約束したわけではないけれど、こんなふうに再び出会えることはとても嬉しい。Tさんは、かなり疲れた表情だった。かなりの距離をこの日歩いたとのこと。途中で靴を買い換えたことなどの話をしてくれた。宿に行く途中ではM夫妻とも顔を会わせる。TさんとM夫妻とは同じ宿だった。
この「民宿ちば」はいい宿だと、と小耳に挟んでいた。もちろん、いいとか悪いとか評価することはちょっと違ったことなのかもしれないけど、ここは遍路の人の心を揺さぶるようなところがあったかもしれない。それぞれの部屋にはノートが置かれていた。そのノートには、泊まった人の感想などが書かれている。中には住所や電話番号までもあったりする。どうしてこの旅を始めたのか、旅をしてよかったこと、感謝の気持ちが書かれている。
宿で嬉しいのはコインランドリーがあることである。お風呂は小さかったが、とてもくつろぐことができた。
食事も美味しかった。天麩羅、刺身、茶碗蒸などなど。今思い出してもここの食事は美味しかった。食べている人もみんなわきあいあいとしていた。歩き遍路の人だけでなく、自転車でまわっている人もいて、いろいろな話をする。一日の疲れを癒している。笑顔がとてもいいな、と思ってしまう。
食事が終わったところで、Tさんの部屋で今後の作戦会議(笑)をする。Mさん、それからOさんというこの後も一緒に旅をする人と、4人でこの先の宿の取り方などの話をする。なにせ、山を歩くことになる。宿も少ない。1日でどこまで行けるかもわからない。話をしてみると、TさんとOさんは、僕とこの先2日とも同じ宿に予約をしていた。
職場に用事があり、久しぶりに電話を入れる。この場所ではPHSの電波が入っていた。こんなふうに電話をすると、遠くに来ているのだなとしみじみと感じることができた。
◎ 第1期 5日目:約10.5キロ / 2001年10月12日(金)
◆ 第18番 恩山寺
◇ 昼食:ガスト 和風きのこスパゲッティ+サラダセット
◇ 宿:民宿ちば 6500円
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