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四国遍路日記 第1期 帰り道
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四国遍路日記 第1期 帰り道 2001年10月17日(水)


 この日は朝から雨だった。晴れていたならば第26番の金剛頂寺に行こうかとも思ったが、断念することにした。朝食は6時半から。6人しかいない客はこの時間には全員揃うことはない。3人ほどでの食事。生卵と海苔がある。他に3品ほどおかずがあっただろうか。それなりに美味しく贅沢な朝食だったと言える。食べ終わったところで、Yさんに旅の終わりを告げる。部屋に行く前に握手をして別れる。

 部屋で後片付けを。時間はあるのでのんびりとしている。缶ジュースの缶を捨てにフロアーに行くとYさんが出て行くところだった。もう一度握手をして最後の別れを。

 宿を出たのは7時半くらいだったろうか。雨の中、傘を差して外で出る。もう白の装束は鞄の中にしまってしまった。菅笠はリックのところに結びつける。

 最御崎寺から下へと降りる道路からの景色は素晴らしかった。雨が降っているために、海はぼんやりとしていてよくは見えないのだが、室津港の方まで上から見下ろす景色だ。次に来たときに、晴れたこの景色から始めるのも悪くはないだろう。山を降り、少し考える。室戸港、つまりは25番の津照寺までそんなにかからないかな、などと思ってしまい100メートルほど津照寺まで歩いたのだが、すぐに断念する。

 そうこうしているうちにバスが通りすぎる。そうなのだ。そんなにバスの本数が多いはずはない。室戸岬のバス待合所まで急ぐ。バス時間は10時8分。その時の時間は8時20分頃だった。なんだか中途半端に時間が余ってしまった。雨の中、傘を差してこのままどうしようか。喫茶店などもなさそうだ。とりあえずは中岡慎太郎の像を見る。彼は海を見ている。海への散歩道があったので、残り時間をしばし海の散歩とする。

 それにしてもこの散歩がよかった。岩の海岸なのだが、ところどころ名前がついていたりもする。月がきれいだという名前の海岸もあった。あちこちと歩き回る。せっかくここまで来たのだから、海の水に手を入れなくてはと思い、波打ち際に。波は強い。いきなりの波で足首まで濡れてしまった。まあ、こういうのも旅の一こまか。雨の中でシャレにならないけれど。

 たぶん、ほとんどの歩き遍路の旅をしている人はこうした場所を知らないのではないのだろうか。山を登り、そのまま最御崎寺へ行き、自動車道路を降りたならば、この場所は通ることはない。

 散歩が終わってもまだ1時間近くも時間がある。やや困ってしまう。バス停の近くに観光センターがある。ちょっと徳島までの交通について聞いてみよう。歩いて来た道を逆にバスや列車を使って進めばいいのだが、その方法などはまったくわかってない。行き当たりばったりな旅だ。今日中に部屋まで辿り着くのだろうかと不安になる。途中で泊まってもかまわないのだが。

 店員さんになるのだろうか。親切に次の列車の時間までチェックしてくれた。僕と同じようにここで聞く人もいるのかもしれない。彼女は珈琲を入れてくれた。僕は昨年の夏から珈琲は飲まないことにしていたので久しぶりだった。とても美味しかった。遍路について、この室戸岬について話をする。NHKで四国遍路の放送がされてから若い人が多くなった、繰りかえしその話をしてくれた。お土産をいくつか買った。

 バスは通勤用というよりも、長距離の椅子の配列である。でも、あちこちで停まるローカルなバスだ。5、6人くらいの客が乗っていただろうか。入れ替わり、時には僕一人になったこともあった。歩いてきた道と逆に進むことには複雑な気持ちがあった。

 海を見ながらバスは進む。あの場所でお昼を食べたな、あの場所で座り込んだな、などとそれぞれの場所でのことがよみがえる。つい昨日のことなのに。ほんの一瞬の出来事だったが、バスは歩き遍路の人とすれ違った。知っている人ではないようだった。急に寂しくなってきた。僕一人がこの旅を終えて帰ることになる。僕だけが……。金剛杖を袋にしまった。

 少しバス酔いでもしたのだろうか。バスはどうも辛い。かなりのスピードでコーナーを走り抜けていた。

 甲浦駅前に着いた。降りる客は僕一人。終点ではないので、急がなければならないのだが、小銭が出てこない。このあとでの列車もワンマンなので、降りるときのお金の支払いが心配だった。降りるときに運転手さんに話かけられる。「もう終わって帰るところなのです」と答える。

 それにしてもこの甲浦という駅はよくわからない建物だった。高架線になっていてホームは上にあるよう。その下に独立したような雰囲気での駅舎がある。駅舎に入るとおばさん達が井戸端会議をしている。その中の一人に、乗りますか?みたいな感じで聞かれる。そうです、と答えると、奥の部屋に行き「11時8分ですから切符を買ってくださいね」と言う。このおばさんはどうやら駅員?さんだったようである。お金を払って切符を買う。

 どうやら改札口とかというものも無いようだ。そろそろ時間なので、駅舎を出て階段を登りホームへ。列車は1両だけ。中には一人が雑誌か何かを見ているだけだった。この人が運転手さんだった。それにしてもこの1両編成の列車の椅子は立派だった。真ん中のあたりはソファーのような雰囲気に並んでいる。

 ふた駅だけの阿佐海岸鉄道はあっという間に終わってしまう。次はどうなるのかわからないままに、乗り換える。JRへの乗り換えになるのだが、降りてすぐに隣のホームへ渡り待っていた列車に乗り込む。

 なぜかこの車両に乗り込むときには切符というものがない。駅員さんに聞いてみても、そのままでいいですとのこと。あとになってもよくわからなかった。2両編成の牟岐行きという列車には少しは乗客がいたのだろうか。近くに座っていたおばあさんが話かけてくれる。菅傘を持っているので、お遍路に見えたのだろう。おばあさんは自分も若かったらお遍路をやりたかったと言っていた。バスでのツアーのあることなども話をしてくれた。納経帳の話が出てきたので、僕は鞄から取り出して見せてあげた。少しは喜んでもらえたのだろうか。

 牟岐駅についてまた乗り換える。最後の列車で徳島駅まで。2両編成のよくある通勤列車という雰囲気かな。最初に徳島から坂東までの車両と同じようなもの。ちゃんと徳島まで行くのだろうか。どのくらいかかるのかもわかっていない。

 ここから徳島駅までの風景は初めてみるものだったかもしれない。もう海はない。途中から多くの高校生が乗ってきた。僕の前には女の子が2人座ったが派手な化粧であまりいい雰囲気ではなかった。他の高校生、男も女も同じような雰囲気だった。腹が減り、身体は疲れてきた。お昼は汁物でもいいかな、と思う。歩いているときは、どうにもラーメンなど汁を飲む気持ちにはなれなかった。

 ようやく徳島駅についてお金を払おうとしたら、もう車内での支払い場所は無くなっている。どうやら清算するようだ。トイレに行って一息ついての清算。なんとかここまで辿り着いたという気持ちだ。

 すぐにでも食事をしたい。駅ビルの地下で蕎麦を食べる。セットもので「かき揚げ丼セット」というものにしたが、丼がメインで蕎麦はちょっとだけだった。なんだか物足りない感じだった。かき揚げは美味しかった。お土産を買い、荷物はいっぱいになる。

 土産は地元のお酒を買う。あとは「すだちチョコ」。この製造会社だか販売会社だかの名前は「(有)ニコニコヤみやげ店」というものだった。全部をリックに入れたのだけど、大きく膨らんでしまった。

 バス乗り場を探す。駅の中に案内はないようだ。あちこちと歩いてみる。神戸までのバスがあるはずなのだ。ようやく場所を探し当てる。新神戸行きのバスの他、大阪行きのもある。新神戸行きのほうが早く着きそうということで新神戸までのチケットを。こんなふうにバスのチケットを買うのも初めてだ。出発までちょっとしか時間はない。急いでトイレへ。

 バスはほとんどが2席を1人で使っているくらいの混みぐらいだった。トイレもあり、ゆったりとして良い感じだった。斜め前の乗客はノートパソコンで仕事をしているようだった。なんだか見ているだけで疲れてきた。

 バスは高速道路に入り、鳴門大橋を渡る。海を見るのはいいが、高速道路という存在自体が橋のようなものなので、あまり橋を渡っているという感覚も無かった。淡路島も普通に建物があり、他と変わらない景色だったような気もする。長いバスの旅も最後の明石海峡大橋へと。ここはけっこう長くて、海への景色もよい感じで、とても楽しめた。疲れてはいたけれど。でも、問題は天気なんだろうか。晴れていれば、もっと楽しめただろうに。

 街中をかなり長い間走ったような気がする。なんとか新神戸駅に。終着駅なのだが、ここで降りたのは僕を含めた数人だった。降りるときに小銭を落としてしまい、あたふたしてしまった。

 新神戸駅はもっと市内から離れていると思っていたが全くそうではなかった。少し並んで切符を購入。まだ時間があったので、お弁当を買う。神戸牛肉弁当にした。

 指定席、6両車10Aの席は3人並びの窓側。一人でとりあえずはのんびりする。ところが、新大阪駅に着くと多くの客が乗ってきた。最悪だった。僕の隣には出張帰りの二人組。先輩後輩が乗り込んできた。この二人の話すこと話すこと。最初から最後までよくある会社のぐしゃぐしゃした話をしていた。ただでさえ疲れていたのが、より疲れてくる。

 お弁当を食べ、外の景色を眺め、本を読み、眠ろうとしたが眠ることはできなかった。途中ではだんだん隣の客にイライラしてきて、デッキに出て本を読んでいた。これでは、指定ではなく、自由席の方がよかったのかもしれない。

 ようやく東京駅。山手線に乗り換え、私鉄に乗り換え、部屋へと。重いリックを邪魔にならないように持ち、菅笠はそのまま手に持っていた。

 部屋で時計を見たら22時23分だった。ほんとうに疲れた。前日までとは違った、変な感じの疲れだった。久々にメールをチェックし、眠りについた。


◎ 第1期 10日目:0キロ / 2001年10月17日(水)
◇ 10:08〜11:00 バス 室戸岬バス待合所−甲浦駅前 1470円
◇ 11:08〜11:22 阿佐海岸鉄道 甲浦−海部 270円
◇ 11:24〜11:40 JR四国 海部−牟岐
◇ 12:04〜14:10 JR四国 牟岐−徳島 1410円
◇ 15:00〜16:50 バス 徳島〜新神戸 3200円
◇ 18:00〜21:16 新幹線 新神戸−東京 14270円(乗車券9030円、特5240円)
◇ 昼食:徳島駅ビル地下蕎麦屋 かき揚げセット 800円
◇ 夕食:新神戸駅弁当 牛肉弁当 750円





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