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四国遍路日記 第2期 1日目 / 第24番 最御崎寺 第25番 津照寺 第26番 今剛頂寺
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四国遍路日記 第2期 1日目 2002年3月7日(木)


 徳島駅前にバスが着いたのは6時40分頃だった。一応到着時刻は6時50分になっているのだが、これには助かった。なぜなら、できれば乗りたいと考えていた列車の出発時刻が6時53分発なのであった。いくらなんでも3分で切符を買って列車に乗り込むのは無理がある。

 なんとか余裕を持って切符を買い列車に乗り込む。2両編成だったろうか。各駅停車のとってものんびりした旅となる。この路線には特急もあるのだが、なにせ本数が少ない。各駅でのこの時間に乗って移動した方が室戸岬には断然早く着く。

 途中で通学の学生が多く乗り込んでくる。女子高生はとってもハデだった。途中で遍路姿の2人組みが乗り込んできたことがあった。歩きなのだろうか。でも、彼らは日和佐ですぐに降りていった。外の景色には海が入ってくる。前回の旅で苦労して歩いたところ。お昼ご飯を食べた鯖瀬を過ぎる。人の少なくなった頃に靴を脱ぎ、足にテーピングをする。これをしないとマメができてしまうかもしれないからだ。

 9時32分に海部という駅に着く。JR四国はここまでなのだが、切符はそのままで乗り換える。今だにこの辺りの鉄道のシステムみたいなものがよくわからない。阿佐海岸鉄道という路線にここで乗り換える。1両編成の小さな列車である。乗る人はほんの数人しかいない。乗っていた2人は遍路の人だった。僕は話はしなかったが、このあとのバスのことなどの会話が聞こえてきていた。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 9時49分に甲浦に着く。車掌さんに「いくらですか?」と尋ね、料金を支払う。懐かしい5か月ぶりのホームである。とても高い場所にあるこのホームはとても独特な雰囲気がある。階段を下りて、駅舎に入る。この建物が駅舎なのかよくわからないのだが、駅とバスの待合所みたいなものになっている。中のおばさんが「こんにちは」と声を掛けてくれる。バスの時間を聞くと、すぐに来るようだった。たぶん1時間に1本とかかなり本数の少ないバスのはずだったが、ちゃんと鉄道の到着に合わせて運行しているようだった。とても助かる。

 前の列車からの遍路の人、あと観光が目的であろう若い女性客、地元の人数名がのんびりと待っていた。ちょっと休んでトイレに入ったりしたところでバスが来る。出発の前に駅舎のおばさんが「景色がいいから左側に乗ったほうがいいよ」と乗る人に声を掛けてくれる。

 バスは海沿いの道路をどんどん進んでいく。前回の遍路の旅で、かなり苦労して歩いた道なのに……。いくつかの目に焼きついている風景、夫婦岩といった名所もどんどん過ぎていく。11時過ぎ頃だったろうか。正確な時間は覚えていないが、室戸岬のバス停に到着する。十分に昼前に着くことができた。僕の他にも何人かが降りる。

 バス停から僕はそのまま海岸へと向う。前の旅のときには雨で景色が見えなかった海岸である。ちょっと風は強かったが遠くの方まで見渡すことのできる快晴だった。さっそくデジカメで海の写真を撮る。月夜の海岸と名の付いている場所でのんびりとする。この時点ではまだこの日の予定を決めてはいなかった。焦ることなくのんびりと1日目を過ごそうと考えていたのだが。

 時間はまだ11時をちょっと過ぎたくらい。まだ朝食を食べていなかったのでバス停のところにある休憩所できつねうどんとおにぎり(計800円)を食べる。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 中岡慎太郎の銅像を見て、さっそく歩き遍路の旅をスタートさせる。第24番最御崎寺は山の上にある。狭い遍路道を歩いていく。前回は1日歩き通したあとの登りだったのでかなり辛かったのを覚えている。今回はまだ歩き始めなのでスムーズに足が動く。汗は流れるが、景色もよく気持ちがいい。最御崎寺に着いて、まずは最初のお参りである。納経帳には書いてもらわなかったが、ロウソクを立て、線香も3本立てる。休むことなく、次へと出発する。11時50分だった。

 たぶん、歩き遍路の人だろう。先に出発した人がいた。できればこうした人にこの後どのあたりに宿を取るのか聞いてみたかった。歩き始めのときには前方にその人が見えたので追いつくかとは思っていたのだが、見失ってしまった。電車の中で地図を見て、どのあたりに宿を取ろうか考えてはいたのだが、適当なところがないようだった。またこの日、自分がどのくらい歩けるのかもわからない。とりあえず、次の津照寺に着いたところで決めることにした。

 この最御崎寺からの下りは車道を通る。とても素晴らしい眺めなのである。けっこう急な斜面にきれいな道路がいくつもの急カーブを持って走っている。歩きながら目の前に、一面に太平洋が飛び込んでくる。海は岸に近い方と遠くの方とでは色が変わっている。ほんとうにこんなにもキレイなのかと思ってしまう。少し先の港町もよく見える。とても美しい。何度も立ち止まり、デジカメでこの景色を写真に写す。もちろん、デジカメのディスクにこの景色がそのまま記録されるとは思っていない。この目で見た景色のほんの何十分の1かくらいのものでしかないだろう。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 僕は普段カメラというものをほとんど使わない。今回の旅のために、はじめて自分のカメラを買ったようなものだった。コンパクトを重視したもので、そんなに質を求めたものではなかった。でも、この景色をそのまま写真という世界に映し出すことができるのならば、どんなに素晴らしいだろうかとも思う。カメラというものを職業にしている人というのは凄いな、どういう気持ちで写真を撮っているのだろうか、などと考えてしまった。

 山を降りて、海岸線を歩く。風が強いために、管笠は手に持って歩くことにした。まだまだ歩き始めということもあり、足は元気そのものである。地図を見ると次の津照寺はすぐのような印象があったのだが、けっこう時間がかかった。ちょっと小さな港があり、よい雰囲気の町だった。長く急な石段を登り、津照寺に着く。お参りをすると、団体の人たちが多くなってきた。いくらバスでのツアーだといっても、この寺のような急な石段をきついだろう。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 納経を済ませ、ベンチで地図を見てこの日のことを考えていると、年配の遍路の人が声を掛けてきた。年齢的には昭和の一桁生まれといった感じだろうか。歩きで回っている人で、なんとここまでで7日目だと言っていた。今日の宿をどの辺にするのかと聞くと、考えていたところに断られてしまってこの近くに宿を取ってこの日は終わりにするつもりでいるということだった。「初日だったらまだまだ足が元気でしょう。行けるところまで行ってみたら?」と言われてしまう。

 まだ時間は1時半くらい。思い切ってこの日は頑張ってみることにする。ここから20キロ以上も先のビジネスホテルに予約をする。ビジネスホテルであれば、遅くに着いたとしてもそんなに気兼ねをする必要はない。電話を入れたときには、満室のようだったが、旧館の方の部屋でよければと言われ、そのまま決めてしまった。

 予約を決めてからの僕の歩き方は急に早足になった。

 国道をただひたすら歩く。そして、金剛頂寺へと向う小さな道へと入る。山の遍路道は登りできつく、汗を流しながら歩いた。上着も脱いでしまう。頂上の金剛頂寺に着いたときには、顔から汗が流れ出ていた。お参りも急いで済ます。納経所は何人も並んでいてなかなか進まない。団体の人がいると、1人でもかなり時間がかかってしまう。文句も言えないのでじっと待つ。今日のこれからのことが気になり、正直なところ気が気ではない。こういうスケジュールを立てる僕が悪いのだけど。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 ここから先は道が2つのルートがある。3キロか4キロくらいなのだが、少しでも早く行けるようにと、道を聞いて先へ進む。ところがどうやら道を間違ったようであった。気ばかりがどんどん焦ってきていた。でも、なんとか国道にたどり着く。あとはこの道をひたすら真っ直ぐに行けばいいだけである。しかし、ここからが長く大変だった。景色はとてもいいのだが、とにかく歩かなければ今日の宿には着かない。地図を見て、あとどのくらいかと見ても、とてもとても遠いのである。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 途中でホテルに電話を入れ、到着の時間が遅くなることを言う。全然かまいませんよ、という電話の向こうの声だった。

 それにしても暑い。夕方になり太陽が近くなってきたときの方が昼間よりも暑いのではないだろうか。僕は上着を脱いで歩いていた。足はまだなんともない。あまり咽喉も渇かない。順調といえば順調なのだが、太陽が沈みかけだんだんと暗くなってきた。そう、なぜか太陽は海に沈んでいくのであった。ここは太平洋なのに。よく考えてみると、この高知県の海は太平洋とはいえ、ぐるりと丸くなっている。そのことから考えるならば陽が沈んでもおかしくなないのだが。

 暗くなった。すっかりと暗くなってしまった。この国道55号の車の数もだいぶ減ってきた。車の通るときには、その灯りで足元が見える。しかし、全く車の通らないときには、足元の様子すらも見えなくなった。それなりの歩道を歩いているのだが、アスファルトの継ぎ目や下水など何があるかわからない。金剛杖で前の方を突付きながら歩く。途中でヘルメット姿の自転車に乗った高校生が走り去る。こういうところを……、とちょっと心配になってしまう。なんとも言えない暗さである。まだ時間は7時くらいだというのに。数日前のJリーグの試合は7時開始というゲームもあったはず。新宿の街の7時とも全く別のものだ。残り数キロ。美味しいご飯にお風呂。それだけを楽しみに歩く。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 奈半利という町に入ったところだろうか、「ホテルなはり」の大きな看板があった。道を曲がり、やっとホテルに到着する。7時45分、なんとか8時前に着くことができた。よかった。あとで計算するとこの日は30キロ以上も歩いたことになっていた。自分でも信じられない。

『四国遍路ひとり歩き同行二人』の地図には「ビジネスホテルなはり」と書かれてあったが、このホテルにはどこにも「ビジネス」という文字はなかった。新館が出来て変わったのかもしれないが、けっこう大きなホテルだった。結婚披露宴なども開かれているような雰囲気だったような。

 受付で支払いを済ませる。部屋は旧館ということだったが、まったく普通で特別古いということではない。部屋はツインの広くよい部屋だった。ホテルのレストランで夕食をとる。とにかく腹が減っていたので、肉類が食べたいと思い「ひれカツ定食」にした。

四国遍路の景色 四国遍路の景色 四国遍路の景色

 食事を終えて、お風呂に入る。なんと大浴場があるのである。入口からは階段がある。けっこう遠いのだが、別棟になっているのだろうか広くキレイなお風呂だった。10人分くらいの洗い場、広い浴槽にほとんど1人でのんびりとしていた。予想を越えて歩いてしまった初日だったのだが、その日の最後にこんなに広いお風呂でゆっくりできるとは。

 よかったのは、これだけではなかった。僕は浴槽に入るとメガネを取ってしまうのでよく見えていなかったのだが、ガラス窓の向こうに何かがある。戸があった。おそるおそるその戸を開けてみると、露天風呂があった。外は寒かったが、露天風呂は温かかった。葉っぱが上から落ちてきたりもするけれど、これはこれでなんだか嬉しい。

 10時をちょっと過ぎた頃、一度も起きることなく朝までぐっすりと深い眠りに落ちた。


◎ 第2期 1日目:約30.8キロ / 2002年3月7日(木)
◆ 第24番 最御崎寺
◆ 第25番 津照寺
◆ 第26番 今剛頂寺
◇ JR四国 徳島−海部 1580円 阿佐海岸鉄道 海部−甲浦 270円
◇ バス 甲浦駅前−室戸岬
◇ 昼食:バス停休憩所 きつねうどん+おにぎり 800円
◇ 夕食:ホテルなはり ひれカツ定食 1480円
◇ 宿:ホテルなはり 6380円(朝食付き)





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