四国遍路日記 第2期 2日目 2002年3月8日(金)
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6時半に起きる。食事は7時から。レストランに行くとかなりの人がいる。遍路姿の人は1人見かけたが、お客さんのほとんどは作業着を着ていたり、ビジネス関係の人のようだった。朝食のメニューは、塩鯖、揚げ豆腐、海苔、小魚、漬物、生卵、ご飯、味噌汁。美味しく食べることができた。こんなに早い時間に食事をするなんて、1年3か月前の遍路の旅以来のことだろうか。
7時40分にホテルを出て歩き始める。朝はけっこう寒い。歩くことで次第に身体が暖まってくる。2時間くらい歩いたところでこの日の宿の予約の電話を入れる。安芸市のところに宿をとろうと思っていた。計算すると約24キロ。前日の30.8キロと比べるとかなり短い。しかしこの日の第27番の神峯寺は1時間以上もの山登りがある。歩いてみなければどのくらいの時間が掛かるかはわからない。まだ2日目で脚も不安である。それに、安芸市を越えて次のところまで行って宿のあるところというと、12、3キロほど先になってしまう。昨日がんばったからな、ということでちょっと軽めの日程にすることにした。
しかし、宿に予約を入れようとしても、なぜか「満室です」という答えが。この町には5軒の宿があったが、最後の5軒目でようやく予約することができた。ほんとうにホッとした。この旅の最後に同宿になった人と話をしたときも、この安芸市での予約が取れなかったということがあった。ひとりは予約が取れなくて、1日分足止めしていたという。この日の予約のついでに、翌日の宿の予約も入れる。これはすぐに大丈夫だった。宿が決まると、明確な目標ができる。今日の宿、明日の宿に、なんとかたどり着かなければならない。キャンセルして迷惑をかけるのは嫌だし、何よりも自分で決めたことをちゃんとやり遂げたい。たぶん、僕だけでなく歩き遍路をやっている人にとっては、この宿の予約というのは1日のやることでもかなり大きなことになっているのではないだろうか。
海沿いの通りを、海を見ながらずっと歩く。ときどき、砂浜に下りて休んだりする。この日は時間の余裕もあるので、とても気持ちが楽である。この辺りの海岸はまさに自然のままの状態。端から端まで見渡すことができる。海岸線を歩くのはとても楽しい。それは景色というものだけでなく、自分の歩いた距離というものを見た目で感じることの出来るところもあるだろう。遠くの方に室戸岬が見えるのだ。まだこの午前中の時間には室戸岬にまでも来ていなかった。それが歩いてきたことにより、遠くの方に見えるのだ。そしてこれから先に進むであろう景色も微かに見える。
国道55号から逸れて、神峯寺への道へと入る。周りの景色は畑だったりする。「のどか」という言葉がとてもよく合っている。道は次第に登りへと変わっていく。そんなに広くはない。そう、ここは大型のバスは通れないようであった。ワゴンのようなタクシーがどんどん通り過ぎていく。登りはけっこう辛いのだが、気持ちよく歩くことができた。途中に見晴台のようなところがあり、休む。海が広がって最高の景色なのであった。
第27番神峯寺に到着する。かなり疲れていたのだが、本堂に行くにはまだ石段がある。しかしこの石段の景色もまた風情があるのであった。お年寄りの人なんかにとってはこの石段は辛いかもしれない。でも、一段一段力強く歩いていく姿を見ることは、とても胸に来るものがあった。
お参りを済ませ、納経所へ。ここでは歩きの人に、お茶のお接待があった。他にも遍路の人がいっぱいいるのだが、とても嬉しい。けっこう年配の女性と一緒にお茶とお菓子をいただく。この女性の年齢はどのくらいだろうか。50歳は越えていたと思う。以前バスの団体ツアーでお遍路をしたことはあったのだが、今回は1人で歩いているという。遠く時間のかかるところはバスを使ったりもしているということだったが、それでも大変なことだ。とても元気な素敵な笑顔をしていた。
この日はまだまだ時間があった。ここから今日の宿までは13キロくらい。時間がかなり余ってしまう。ということで、この景色をもう少し楽しむことにする。この神峯寺の近くには「空と海の公園」というのがあって、そこまで行ってみることにする。ほんの少し歩けば着くような雰囲気だったのだが……。 これが実はけっこう遠く大変な道のりだった。もちろん、他の人にとってはそんなに大変ではないかもしれないのだが、僕の脚にはこの登りの道はきつかった。狭い遍路道のようなところも通り、なんとかこの公園の展望台までたどり着く。神峯寺にはあんなに人がいっぱいいたのに、ここまでの道で遍路の人とは誰とも会わなかった。ほとんど来る人はいないようである。しかし、展望台には夫婦と犬が一匹。自分1人ではなかったと、とても安心した。
らせん状の階段を登り、展望台の一番上に。なるほど、確かに素晴らしい眺めだった。さっそくデジカメで写真を撮るが、当然一枚にはこの景色は入らない。室戸岬のように海の近くの景色もよいのだが、この景色のようにちょっと海から離れたところから町を海を眺めるというのも特別な良さがある。建物や道路、畑といったものに人の営みが感じられるからなのだろうか。
山を降りて、今日の宿へと向う。かなり急な道路を下っていくのは足が辛い、特に足の底のところに負担がかかる。マメができそうな感じがする。しかし、歩きながら、前方の遠くの方に海が次第に広がっていくというのはとても嬉しかった。途中で母子で歩いている遍路の人がいた。子供のほうはまだ十代だろう。こんなふうに歩いている人もいるのだ。
国道55号に戻ってきた。お昼の時間はかなり過ぎた。ここで昼食にすることにした。道路沿いにあったドライブイン27というお店に入る。お相撲さんの色紙がいっぱい張られてあった。カレーライスを注文して食べた。先ほどの母子もこの店に入ってきた。少し話しをする。どうやら完全な歩きということではなく、バスに乗ることのできるところはバスに乗っているということだった。1日にどのくらい歩いているのかと言った質問を受ける。でも、区切りで歩いている僕はこの日がやっと2日目。1番から通しで歩いているのであればいいのだが、なんとも区切りでは歩きの苦労を十分に味わっていないのかもしれない、と思い始める。
またまた海沿いの道を歩く。この高知ではよく良心市というものを見かけた。野菜や果物が木箱に入っていて、自分のお金を入れるというものである。小さなものから、かなり大きなものまであった。ときどき、砂浜に下りて休んだ。自分の足跡を写真に撮ったり、海の景色を十分に独りで楽しむ。この砂浜は端から端まで見渡しても誰もいない。あとで同宿になった人と話をしたら、やっぱり僕と同じように砂浜で休んでゆっくりとその道のりを楽しんでいたようだった。
途中に面白い景色があった。大きな洞窟のようになって、その中というか建物が一緒になっているところ。小さな港も素敵な場所だった。港の入り江の中に島があり、そこが公園になっているのだ。わざわざその公園に渡り、景色を楽しむ。この四国という場所全体が、海のテーマパークのように思えてきた。
この日の行程には余裕があったはずなのに、なぜかなかなか安芸市の宿には着かなかった。もう少しだろうというところからがけっこう遠かったりする。この日の宿であるビジネスホテル弁長にチェックインしたときは5時ちょうどくらいだった。
遍路の旅が初日から2日連続でホテルというのは正直なところちょっと寂しくあった。でも、泊まれるところがあるというだけありがたいことである。
このホテルは素泊まりなので、夕食をどうしようかと悩む。もちろん、レストランが付いているのでそこで食べることもできるのだが、ちょっと外に出て歩いてみる。足はやや痛いのだが、まだこのくらいの元気はあった。他の旅館のあるあたりとかも歩いたがとても静かな街だった。国道沿いは車がどんどん走りうるさいのだが、ちょっと外れると落ち着いた雰囲気になる。あまり食べるようなお店はなかった。飲み屋はあったが、この遍路旅で禁酒している僕にとったは入ろうとする場所ではない。
普段の僕の生活というのはほぼ毎日のようにビールなどアルコールを飲んでいるのだが、前回の旅に引き続き、今回の遍路旅も禁酒ということに決めている。せっかくアルコールから離れることのできる環境なので、禁酒ということにしたのである。僕の場合、本来そんなに酒好きではないのかもしれない。あまりストレスのない旅だからというのが大きいからなのだろうか。あまり飲みたいとも思わない。アルコールを飲むことよりも、美味しいおかずを白いご飯で食べたほうが楽しかったりしていた。
そんなわけで、ホテルに戻りそのホテルのレストランで夕食を取る。客は僕1人しかいなかったような。もちろんあとからぼちぼちと食べている人もいたが。「唐揚げ定食(ライスおかわり)」を注文する。待っている間にスポーツ新聞を見る。そうなのであった。この高知のスポーツ新聞の一面はほとんど全て阪神タイガースだったのではないだろうか。考えてみると、この安芸市というのはタイガースのキャンプ地だった。
唐揚げ定食を食べて部屋に戻り、狭いユニットバスでのお風呂に入る。この部屋も前日と同じツインの部屋だった。広い部屋はとても嬉しい。10時前に眠りについた。
◎ 第2期 2日目:約24キロ / 2002年3月8日(金)
◆ 第27番 神峯寺
◇ 昼食:レストラン(店の名前忘れる) カレーライス
◇ 夕食:ビジネスホテル弁長のレストラン 唐揚げ定食(ライスおかわり) 980円
◇ 宿:ビジネスホテル弁長 5040円(食事なし)
◇ 翌日の朝食:ビジネスホテル弁長のレストラン 和食
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