四国遍路日記 第2期 3日目 2002年3月9日(土)
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6時半に起きて朝食を取るために7時に昨日と同じホテルのレストランに。エレベーターの中では遍路姿の人と一緒になる。話はしなかったが、この人は朝食をとることなくすぐにチェックアウトして旅立っていった。レストランは7時からというのに多くの人がもう食べていた。和食の朝食を注文する。オムレツに納豆、他にもいろいろな料理があった。
7時半くらいに僕もチェックアウトをして出発。この日の予定の歩く距離は約25キロくらい。特に大変なところもなく、たぶん今回の旅で一番楽な1日となるだろう。まあ初日にがんばったので、その分自分自身へのご褒美のようなものである。この日は寄り道することにしている。途中に「龍馬歴史館」というものがあるので、そこに寄ってみようと思っている。ゆっくり見ても、宿にはかなり余裕を持って行けるだろう。
今回の四国遍路の旅は、できればこのようにあちこち寄り道したいと考えていた。何と言っても、坂本龍馬の故郷である。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は学生の時に読んでいる。その本は何人かに貸して、一人は桂浜の坂本龍馬の銅像まで見に行ったりしていた。僕がこの本を読んでからもう20年近くにもなってしまうのか。出来るなら、坂本龍馬を感じたい。それが今回の旅のもうひとつのテーマであった。
3日目となるこの日の海の景色も楽しいものだった。しばらく歩いたところで、自転車専用道路というものがあり、ほとんどこの静かな道を歩くことになる。国道は迷うことなくわかり易いという良さはあるのだが、なによりもうるさく風情というものが全くない。この自転車専用道路はとても気持ちよく歩くことができた。ただ、実はこの道路が原因かどうかわからないが、硬い地面は足にかなり負担があったように思える。特に右足が辛くなってきた。少しばかり引きずったような感じでこの先歩いていくことになる。
この自転車専用道路は、堤防と民家の間くらいに走っている。海は見えるところとそうでないところがあるが、民家のすぐ脇を通ったり、普段の生活のようなものが感じられてとてもほのぼのとしたものがあった。幼稚園などもあったが、ほんとに海のすぐ近くのところにあるのだ。毎日この太平洋を見ているならば、広い心を持った人に育っていくように思えた。
途中で自転車に乗る地元のおばさんに声を掛けられる。「どこから来たのですか?」、「東京です」と答える。ほんのちょっとした会話なのだが楽しかったりする。
途中で小さなトンネルがあった。外は暖かなのに、こうしたトンネルに入るととてもヒンヤリとした。この高知の気温は、太陽光線によって変化しているのではないだろうか。
この快適な自転車専用道路も終わりとなる。また車の交通量の多い国道を歩くことになる。間違わないようにと思い、国道55号をそのまま歩いたのだが、あとから地図を見ると遍路道は別の通りがあったようである。それにしてもこの辺りの国道55号は凄かった。交通量も多く、うるさいのだが、通り沿いには普通の民家がいっぱいあったりしている。静かないいところのいっぱいある四国なのに、なんでこんなうるさい道路のすぐ脇で暮らすのだろう、などと余計なことを考えてしまう。でも、わからなくはなかったりもする。僕の実家のある町も、車中心の社会だからほとんど町を歩くということはなかった。車で便利なところ、車からの景色というのが、生活というものになっているのかもしれない。
地図と睨めっこしながら、道を曲がり野市という町の中に入っていく。そろそろ食事をしようと思い適当なところがないかと思いながら歩く。道路の右側の歩道を歩いていたのだが、見えてくるレストランは左側ばかり。交通量は多いし、簡単に左側に渡ることはできない。仕方がなく、そのままどんどん歩いて行く。分かれ道のところにあった「中華料理理泉園」というところで昼食にする。焼き蕎麦を食べる。疲れているときには、パスタなどの炭水化物のほうがすぐにエネルギーに変わる、ということを思い出してこの焼き蕎麦にしたのだが、とても美味しかった。隣で食べていたお客さんが、僕を見ていろいろと話をしてくれる。歩き遍路をしていると、正直なところとても大切にしてもらえるのである。お店を出るときも、がんばってと声を掛けてもらう。こうしたことが歩くことを勇気付けてくれる。
町の中の狭い通りを抜けて「龍馬歴史館」に着く。広い駐車場は、ほとんどガラガラの状態だった。入園料を払うときに、係りの人が僕の姿を見て「よかったら荷物をお預かりしますよ」と言ってくれる。事務室の中にリックと管笠と金剛杖を置かせてもらう。
どのような内容の場所なのか、よくわからなくて入ったのだが、ここは全てが蝋人形の展示だった。「写真も自由ですよ」と言われたのだが、あまりにその蝋人形がリアルすぎて、とても写真に撮ろうという気持ちにはなれなかった。龍馬の子供の頃から、最後のところまで、蝋人形でその場面が再現されている。ときどき通路の椅子に座ったりしながら、かなりのんびりと館内を見てまわった。最後のところには特設コーナーという形で現代の政治化などの有名人の蝋人形もいっぱいあったのだが、ちょっとまあなんというか(笑)。
展示が終わって出たところにはお土産屋さんがある。荷物を増やすわけにはいかないので、買うことはできない。少しばかり見て外にでる。
外では観光ツアーのようなバスが来ていて、入口のところで記念写真を撮っていた。預かってもらっていた荷物を受け取り、この日のメインである大日寺へと。
4時ちょっと前くらいだったろうか。大日寺に着き、お参りをする。ここは静かでとてもいいところだった。ベンチに座りしばらく時間の流れるままに過ごす。あとは近くの宿に行くだけなので、のんびりと過ごす。なんでこの寺はこんなに静かなのだろうか。四国には遍路の礼所が八十八箇所ある。多くの人が順にまわっていくので何所も同じような人の数になると思うのだが。この大日寺は静かで素朴でとても落ち着くことができた。急いでまわるだけが歩き遍路の旅ではないと思う。でも、翌日翌翌日の僕はまったくお寺でゆっくりと佇むことなくどんどんと歩いて行くことになったのだが。
少しばかり歩いて宿へ着く。旅籠土佐龍というところなのだが、途中に看板が出ていたのでけっこう大きなところであることはわかっていた。遍路の宿には、小さなほんの数人しか泊まれない民宿からバスツアーなどで泊まるような大きなところとがある。しかし、予約をするときにはそこがどんなところなのかは全くわからない。わからないからこその面白さもあるのだが。
まだ5時にもなっていない。まだこの宿には僕1人しか客が来ていない状態なのだろうか。こうした大きな宿に早く入ったときの楽しみは何といってもお風呂である。たぶん、この日は僕が一番風呂だったような。広いお風呂にゆっくりと浸かる。ああ、なんと幸せなのだろうか。のんびりとしていると、何人かのオジサン達が入ってきた。湯船で僕に声を掛けてくる。でも、何って言っているのかよくわからない。けっこう早口だったりしている。学生さん?なんて言われたりもする(笑)。何度か聞き返したりしながら、裸のお付き合いをする。
部屋に戻って、ちょっとボーっとしていると、もう6時の夕食になった。食堂はとても広いところだった。後になってわかったことなのだが、個人の客は僕ともう1人Mさんという女性だけであった。他はバス1台のお爺さんお婆さんの大遍路ツアーだった。
だいたいどこの宿でもそうなのだが、個人の特に歩き遍路の人なんかの席は近くにしてもらったりしている。ちょっと向い側の席で食べているMさんは僕よりかなり若い。黙々と食べていたのだけど、思い切って彼女に声を掛けてみる。何人かいると自然に話になったりするのだが、同じテーブルに2人しかいないようなものなので、声を掛けなければ会話は始まらなかった。彼女も歩き遍路の人であった。僕と同じように区切りで2回目の旅。なんと前回は3年前だったという。いろいろと話をする。歩き遍路の場合、僕よりもずっと年齢の上の人と話をすることがほとんどだった。それはそれで自分が最年少ということで楽に話ができたりしたのだが、正直なところ、自分よりも若い、しかも女性とこういう場所で話のできることは嬉しいものだった。なんで遍路の旅をしているかについても、「よくわからないですよね」とお互いに微妙なわからなさ、があったのかもしれない。年配の人との会話ではこのあたりがなかなかわかってもらえなかったりする。
3日目にして僕はホテルというところから離れ、遍路宿というところに泊まることができたわけなのだが、ここの夕食はとても豪華で美味しかった。鰹三昧といったらいいのだろうか。楽しみにしていた鰹料理をやった食べることができた。
Mさんとは食事が終わっても話をしたいたのだが、ツアーのお婆様方が話し掛けてくれる。自分のこの遍路に関わった話などをしてくれるのだ。しかし、早口で方言で言っていることがあまりわからなかったりする。しかし、Mさんは笑顔で相槌を打って話を聞いている。でも、お婆さん達が去った後、何を言っているのかよくわからなかったという(笑)。でも、気持ちはちゃんと伝わってくるのである。不思議な縁があり、何度もこのようなツアーを企画して多くの人と遍路の旅をしているとのことだった。
部屋に帰り、早い時間に眠りにつく。この2日間はどちらかというと楽な日程だった。しかし、翌日、その次はけっこうな距離を歩くことになる。ゆっくり寝て身体を休めることもこの歩き遍路の旅には大切なことだ。でも、実はこの宿ではあまりゆっくりと寝ることはできなかった……。
◎ 第2期 3日目:約25キロ / 2002年3月9日(土)
◆ 第28番 大日寺
◇ 昼食:中華料理泉園 焼き蕎麦
◇ 宿:旅籠土佐龍 7350円(2食付)
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