四国遍路日記 第3期 8日目 2002年10月25日(金)
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遍路での朝は不思議とちゃんと起きる。一応目覚ましはセットするのだが、目覚めが悪いなんてことはない。この日はすぐに山を越える遍路路に入る予定となっているので、少し緊張している。朝食を食べたあと、コーヒーも入れてもらった。7時頃に宿を出る。少し冷たいくらいの空気。けれど歩き出せば、すぐに暖かくなる。
20分ほど歩いたところで、静かな山の中の、狭い遍路路へと入る。地図によると、この柏−大門の遍路路は約3時間と書かれている。国道を通るコースもあるのだが、こちらはちょっと曲がりくねった感じ。昨夜、宿の女将さんから聞いた話では、どちらも時間的にはほとんど同じということだった。山道の場合、その傾斜など地図の上ではよくわからないわけで、歩き出してもまだ不安だった。まったく誰もいない中をひとりで歩いて行く。汗はどんどん流れてくる。登り道は厳しいことは厳しいのだが、いくらかは厳しいと感じる道を歩きたいという気持ちもある。この山の最も高いところに来たあたりだろうか。景色の広がる場所があり、遠くに海が見えてきた。半島が見え、いくつかの島が見える。少し霧が掛かったようが雰囲気だが、その青さは印象的であった。道は下りになり、地図に書かれてあったのと同じに約3時間でこの道のりを歩ききった。
この後しばらくは、典型的な田舎の景色の中を歩く。田畑と山、小川、小さな橋。海のある景色もいいのだが、海の見えない田畑の景色の方が、自分の子供の頃の風景に近く、どこか落ち着くいた気持ちにもなれる。ちょっとした山のようなところを歩いていたとき、ほとんど民家の畑の脇に狭い通りを抜けたとき、犬が僕にまとわりついて離れなくなった。その買主の人だろう。必死になって捕まえようとするのだが、振り切って僕の方に飛びかかってきたりした。今でこそ、こうした動物に触ったりもできるようになったが、小さかった頃は犬なんてのは本当に苦手でビクビクしていた。その頃のことをちょっと思い出すような出来事だった。
この後30分くらい経ってからも別の犬と出会う。こちらはそんなに怖くはなかったが、僕の隣にずっと着いてきた。誰も人のいないような道をかなり一緒に歩いたりもしたのだが、どこからか買主が出てきてその犬も去っていった。
津島町というところに入る。国道の右側には川がある。その反対側に静かな街並があった。子供の頃によくあったような雰囲気の橋を、おばあさんが歩いて行く。反対側の方へと、ゆっくりと。僕は立ち止まり、遠くからそのおばあさんの動きをしばらく見ていた。
12時を過ぎて、どこで昼食を取ろうかと悩みながら歩く。たまにはご飯ものではなく、麺類を食べたい気持ちだった。長いトンネルに入る少し手前ということもあり、何軒かの店があった。もう少し良さそうな店があるかな、と数軒を通り過ぎる。どうにも優柔不断の性格のためになかなか決められないのである。少し雰囲気のありそうな喫茶店があった。12時半頃、ランチメニューもいくつかあるみたいで、その店に入る。中は10人くらいの客がいただろうか。ほとんどの人はマンガ雑誌を読んでいた。一番奥の方の席に座り、焼き蕎麦を珈琲付で注文する。老夫婦でやっているという店だった。カウンターのところでは、主人がサイフォンでの珈琲をいれている。棚には多くの模様の珈琲カップが並んでいた。焼き蕎麦は美味しく、珈琲も香りが良かった。
また歩き始める。午後の1時くらい。この先は旧国道を歩くコースと長い松尾トンネルを歩くコースとに分かれている。自動車の廃棄ガスを吸いながらのトンネルは出来れば避けたいので、旧国道のコースを行こうと思っていた。曲がり道を注意して見ていたのだが、いつの間にか松尾トンネルの入口まで来てしまう。ここから引き返すというのは、やっぱり嫌だ(笑)。前へ進んで道を間違えるならば仕方がないが、どうにも同じ道を戻るというのは苦労した脚に悪いような気がしてしまうのだ。ちょっとした気持ちの問題なのだろうけど。
1.7キロのトンネルは正直なところ辛かった。いくら歩いても中間地点まで辿り着かない。やっと中間地点に着いたとしても、出口までが遠い。ごーぉぉぉっという地響きのような音が、身体全体に打ち付ける。トンネルを出たときには、地面に腰を降ろし、その空気を吸ってしばらく休んでしまった。この日の残りはあと7キロほど。もう難所というところも、道に迷うようなところもないはず。ゆっくりと行くことにした。
ガソリンスタンドがあったり、自動車の整備工場があったり、どこにでもあるような郊外を走る国道の景色の中を歩く。3時頃には「ジョイフル」というファミリーレストランに入り休憩をした。ドリンクバーとセットになっているチーズケーキを食べた。甘いものが食べたなったのだ。遍路スタイルでこういうお店に入るのは、少しばかり抵抗があったが。会計のときに、50円オフのドリンクバーサービス券を貰う。これから使うこともないだろうが、ちゃんと持ち帰ってしまった。
宇和島の街はかなり大きかった。市街地に入ってから宿の近くまでは、1時間ほどは歩いたような気がする。宿の近くだろうという場所に来ると、どうやらすぐ近くに港があるようだった。道路が工事中でかなりごちゃごちゃした街並だったが、少し歩いて港の景色を見た。入り江のようになっているので、どこからどこまでが港になっているのかはわからない。けれど、工場のような建物があり、いくつかの船が停まっていた。まだ夕陽とまではいかないが、陽の光が反射して、とてもきれいな景色となっていた。
4時20分頃に宿に入る。この日の宿「千代乃屋旅館」というのはとても小さなところだった。玄関のところでは、ここの子供なのだろう、ゲームをして遊んでいた。女将さんに部屋を案内してもらう。3階の部屋に上がるときにちょっと辛そうにしていると、すみませんね、と声を掛けてくれた。部屋に入り、窓から宇和島の街の景色を眺めていると、さっきの子供がもじもじしながらタオルを持ってきてくれる。
お風呂に入り、夕食までの時間は部屋で横になって休んでいた。翌日の、最後の宿の予約を入れる。特に問題なく大丈夫だという返事だった。
この宿には僕の他に、7、8人の客が泊まっていた。みんな同じ会社の人のようで、近くで工事をしている様子。何日もこの宿に泊まっているようだった。夕食はけっこうボリュームもあり、食べがいがあり、とても美味しいものだった。少しテレビを見て眠りについた。
◎ 第3期 8日目:約27キロ / 2002年10月25日(金)
◇ 昼食:喫茶店 焼き蕎麦+珈琲
◇ 宿泊:千代乃屋旅館 6300円
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